□馬鹿
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相変わらずの膨大な仕事をばっさばっさと捌き、時折ポンコツな上司を古いテレビよろしく叩き、最近かなり懐いてきたシロを撫でつつ、いつも通りの一日が過ぎ去ろうとしていた。処理が終わった書類を束ね、部屋に戻ろうと廊下を歩いている途中。
「ねぇ君今度僕の店に来ない?あ、店舗兼自宅なんだけど」聞き慣れた、聞きたくない声がした。
「えー?どうしよっかなー」満更でも無さそうな女性の声。更に言葉を重ねて口説く白澤に、いつもなら湧くはずの殺意は全く湧かない。それどころか、何だか胸の辺りが締め付けられて、苦しくて。不意に目頭が熱くなった。
「………」気を落ち着けようと軽く頭をふる。どうしたと言うのだ今更。こんな光景、いつも見ているはずだろう。何故傷つく?自問しても、答えは出ない。
「…いつもの事だ。今更何を」言い聞かせる様に呟いて、鬼灯を止めていた足を再び運んだ。白澤の後ろを通り過ぎて。
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