□愛を込めて花束を
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愛を込めて花束を
















「百日通い?」唐突に白澤が言った言葉を鬼灯が煩わしげに繰り返した。人が仕事中だと言うのに勝手に部屋に上がり込み、何を言うかと思えば。内容もタイミングも唐突過ぎて、さっぱり意味がわからない。
「あれ、知らない?平安時代に小野小町が深草の少将に、」
「話の内容は知っています。が、何故貴方が突然そんなことを言い出したのかは知りません」概要を説明しようとした白澤をバッサリと切り捨て、視線を書類に戻す。それでも白澤はつらつらと口を動かす。
「こないだ遊んだ女の子からその話聞いて…あ、その子とは食事までしかしてないよ」
「聞いてません」
「つれないなー。あぁ、それでね、僕もしてみたいなぁと思って」
「は?」理解できない発想に鬼灯は疑問符を浮かべる。そんな様子を見てにんまりと笑うと、白澤は続けた。
「百日通い。やってみたいな」
「誰が?誰のところに?何の為に?」
「僕が。お前のとこに。そりゃもう愛の為に?」
「くたばれ」
「ひどい!」心底鬱陶しいと言わんばかりに吐き捨てた鬼灯に白澤が擦り寄る。
「ね〜良いじゃん。お前にデメリットは無いだろ?」
「有りますよ。下らない事に仕事の時間が削られる」
「愛を育む為の時間だよ」
「キモい」

しばらく不毛なやり取りが続き、とうとう鬼灯が言った。
「私達には必要無いでしょう。あれは、深草の少将が想いを繋いでもらうためにしたことです。私達は既に想いは通じてると思っていますが?」ぽかんと口を開けたまま固まっている白澤に珍しく笑いかけて、鬼灯は続ける。
「だから、する必要は有りません。わかりましたか?」
「…うん。僕って愛されてるんだってわかった」へへ、とだらし無いくらいにやけた顔で、白澤が鬼灯を抱きしめる。やれやれという様に鬼灯は肩を竦め、腕をまわした。
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