短編

□らしくない
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前世は幸せな家族だった。



平成の世に生まれ、優しい母と厳格だが家族思いの父に美男美女の兄と姉がいる家系の末っ子だった。



家族の仲は近所や友達も羨む程よかった。


毎日が楽しくて仕方がなかった。


ずっとそんな日が続くと思ったある日、俺はガンになった。


発見が遅れてもう助からないと言われて、家族みんな泣いてた。


母は泣き崩れた、父は悔し涙を流した、兄は嘘だと言って泣いていた、姉は自慢の化粧を崩すほど号泣した。



そんな家族を残して、俺は呆気なく17年の人生を終えた。




そして今、また俺は生まれた。


今度の家族は、母しかいなかった。

前世より暮らしは良くないし治安も悪い。


その日の食事すら満足にとれない世だった。


母は娼婦をしていた。

俺はたまたま産まれてしまった、相手の子だった。


けれど母は俺を捨てずに大事に育ててくれた。

金を稼いでは俺の望みを叶えようとした。


ボロボロな服を買い換えもせず、俺に不自由をさせないように懸命だった。


母はたまに父である人の事を話してくれた。


俺の容姿は父にそっくりだと、話した母の顔は悲しそうだった。


そうして母との生活が十年目を迎えたとき母が病を患った。


本当は休んでなければならないのに、母はなけなしの金を使って船に乗りシンドリアという国に向かった。



しかし、母は船旅の途中で亡くなってしまった。


衰弱していた母には体力がほとんどなかったのだ。


母が死ぬ前元々感情を表すのが苦手な俺は、初めて泣いた。

母は驚いた顔をしたけれど優しく笑っていた。



「ごめんね…レンツェ…。」



この言葉が、母の最後の言葉だった。


優しい船の船員や船長の計らいで、何とか弔いを終えて俺一人がシンドリアに足を踏み入れた。



母がなぜこの国に来ようとした理由は解らない。


目的を失った俺は生まれた時から身体能力が高かった事を生かして剣闘士になった。



そうして一人で暮らし始めて半年。


今、俺の目の前に俺と同じような容姿をした男が立っていた。






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