短編

□幻の先で貴方と
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赤い椿。

アンタが好きだった、花。


白く何もない場所に一輪だけ横たわる椿は、まるでアンタみたいだった。



「…いるのだろう、アスハ。」

『……なして、斎藤はんには解ってしまうんやろ。』



いつものように、涼しい顔をして白の空間にいきなり現れた。


静かに笑う姿は美しく、きれいだった。



『斎藤はん、お散歩しましょ。』



そう言って緩やかに俺の腕を自分の腕と絡めて歩き出す。


何もない場所だから、進んでいるのかすらわからない。



「アスハ、」

『なんでしょう?』



大人びた笑みで俺を見返す瞳には、俺しか映っていなくて。


いつも、一番高い場所から夜の通りを見下ろす瞳とは違う…熱を帯びた瞳。



「アンタは……。」

『…斎藤はん、うちはまだ斎藤はんと一緒にいたい。』



いい淀んだ俺の言葉に被せるように、発した声はどこか必死で。



『斎藤はんもせやろ?うちと、一緒に…。』

「あぁ、アンタと共にいたい。」

『ならっ…』

「けど受け止めなきゃならない…アンタが、死んだことを。」



言いきった俺を、アンタは目を見開いて見つめている。


涙がうっすら浮かんで、迷子の子供のように不安げな顔で。



『斎藤、はん…。』

「……俺が生涯愛す女は…アンタだけだ。」


抱き寄せると、肩を震わせて泣き出す。

泣くときまでも、アンタは静かだ。



「アンタを忘れたりしない…アンタは、俺のなかで生き続けている。」







幻の先で貴方と

(儚げに笑いながら)
(その顔は、いつものアンタで)
 

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