貴方への想いを。

□何でも無いよ。
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気持ちを伝えるタイミングを逃した俺は、あれから一切、ラボから出ていない。


数日ちょこちょこラボの前に気配を感じたが、扉を開ける気にもならず、誰か確認するのも面倒で、そのまま無視を続けていた。


そのくせ

「先輩だったらいいのに。」

と思ってしまう自分に、先輩への気持ちの大きさを思い知らされた。



そうして一週間くらいが経った時。
気配だけだったラボの前から声が聞こえた。


「…おい、クルル。開けてくれないか。」


……ギロロ…先輩?



凄く久しぶりに聞いた大好きな人の声。

それだけなのに、動揺しちまっている俺。


気付いたら、扉を開くスイッチを押していた。


静かなラボに響く、先輩の足音にドキドキして、それを隠すように、急いでキーボードを打つ。


足音が止み、後ろにいるであろう先輩を、嫌でも意識してしまう。

少ししても、何も言わない先輩に焦れた俺は、なんとかいつものように、嫌な態度で聞いてやった。


「…ククッ…何か用かよ?ギロロ先輩。」


そう聞けば先輩は、まるで躊躇うように、少し間をおいて、それから口を開いた。


「…いや…この前の事が気になってな。」


俺の心臓が跳ねる。

ドクドクと煩い。


「あれは…どういう意味なんだ…?」


真剣そうな声。
俺はふりかえる事も出来ず、自分の手元を見下ろした。


「何でも…ねぇよ。」


俺も馬鹿じゃない。先輩が何の事を言っているかなんてすぐ解った。

気持ちを伝えるなら今だってのも解った。



でも、よ。


あの女と話している時の、あの先輩の嬉しそうな顔。

本当に幸せそうで。


悲しかったけど。


先輩が幸せならいいかなって。

そう思ったんだ。


俺は椅子ごと先輩にふりかえる。
目の前には間抜けな顔をしたギロロ先輩。



……でも、やっぱりちょっと悔しいから

最後の最後に少しの嫌み言ってやんよ。


これからは、この気持ちとか、先輩への想いよりも、先輩の幸せを一番に願うから。


悪戯とか、ちょっとくらい許してくれよ。



だから



「せんぱぁい…あの女と話すのは楽しかったかよ?」


ぴくりっと先輩が揺れる。



先輩が本気で嫌がるだろう、悪戯はこれで最後。


「…侵略するはずの星の女を好きになるなんてなァ…」



嫌な奴でも、それでアンタの記憶に残れんなら…


それで……いいや。



「…アンタも落ちぶれたもんだ…」

「…黙れ…!」


俺の頭に銃を突きつける先輩。


あーあ…本気で怒ってら。

…その目も好きだよ先輩。


俺はにやにやと笑って言ってやった。


「その顔…好きだぜェ…先輩…。」


バァンッ!!と銃声が響いた途端、ラボの棚から色々と崩れ落ちてきた。

焦げた匂いと、煙や埃が舞う中、ちょっとした道具の下敷きになりながらも、なんとか体を起こした。


少しむせた後、目を開けると、そこにはもう、先輩の姿はなかった。
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