小説隠し部屋
□語り華二周年お礼その1
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「剣心!稽古に付き合って!」
朝食を食べ終え、洗濯物を干し終えて寛ぐこと早半刻。
縁側の柱にもたれてのんびりしていた剣心の背後から威勢の良い声が飛んできた。振り向けば、そこには胴着に身を包んだ家主である少女の姿が。
剣心はほんわかとした様子で微笑むと、竹刀を片手にこちらを見降ろす少女に向けて首を傾げた。
「おろ?……これはこれは薫殿。弥彦はどうしたのでござる?」
「弥彦ね今日が赤べこの手伝いがあること忘れてたみたいで、私との稽古投げ出して出てっちゃったのよ……完全に手持無沙汰になっちゃったわ」
「それはそれは困ったでござるなぁ。まぁ薫殿、茶でも淹れようか?」
「あ、嬉しい!気分的にちょっと濃い目の方が良いな」
「相判った」
ニコニコと人好きのする笑み何か浮かべながら腰を上げた剣心に、薫はハッとして立ち去ろうとする剣心の袖を掴んだ。
「そうじゃないでしょー!」
「おろろろ……」
グイ〜ッと引っ張れば特に抗うわけでもなくよろよろともどってくる剣心。
「もう!こう言う話したらすぐにはぐらかすんだから!」
「ははは、そんなつもりはないでござるがなぁ……」
ぷぅ、と頬を膨らませた薫を見て剣心は困ったように頬を掻く。どうやらあまり乗り気ではないようだ。
「とにかく!今日と言う今日は私の稽古に付き合ってもらうんだからね!」
「お、おろ……拙者、竹刀はちと……」
「じゃあ木刀でも逆刃刀でも使って頂戴。行くわよ」
問答無用、と言わんばかりに剣心の襟首を掴み廊下を引き摺って行く。
後ろで剣心がおろ、おろと困惑したように声をあげているが特に気に留めることなく廊下を突き進む薫。
「あ、あの……薫殿……」
「何よ」
「ちゃんと一緒に道場に行くから、自分で歩かせてもらって良いでござるか?」
「……」
「逃げぬ逃げぬ」
疑いの眼差しを向けてくる薫に剣心は眉尻を下げて微笑んだ。……どうやら、観念する意図の様子。
それを認め、薫は掴んでいた剣心の襟首を放してやった。
「忝い。……ソレにしたって薫殿?いつになく強引でござるが……弥彦に何か言われたのでござるか?」
乱れてしまった襟元を正しながら問う剣心に薫は言葉を詰まらせる。やはり、強引過ぎただろうか、などと思っても時既に遅し。
小さく溜息をついて、立ち上がった剣心に向き直った。
「私と手合わせするの……嫌?」
「嫌というか、やはり女人に武器を向けるのは気が引けるでござる。……ましてや、薫殿になんて……」
確かに、相手が道場を担う師範代であるとはいえ男が女に武器を向けるのは気が引けるものなのだろう。
「……一度だけで良いわ。お願い」
「……」
「……」
「……相判った……」
「!」
無言のやり取りの末、先に折れたのは意外にも剣心の方だった。
「ホント!?」
「ああ。……ただし、本当に一度だけでござるよ。」
「うん。分かってる!ありがとう」
嬉しそうに笑う薫に、眉尻を下げてはいるが剣心も相好を崩す。
「では、道場に行こうか」
そう言って剣心はすぐ目の前まで見えてきた道場に向かって足を向ける。薫も嬉しそうに剣心の後に続き、道場に向かった。
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