君を、愛する

□2.ふたりの時間を、
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僕が言った通り、僕らはたまに会うだけで本当にそれ以上はなにもなかった。
**は他の女と違って、決して僕にベタベタしてくることはなかった。
それは僕にはとても好都合で、文句はなかった。


だけど…あの日を境に、僕は少しずつおかしくなっていた。
彼女が“変な噂”を流さないよう監視できるならなんでもよかったはずだった。
それなのに…。
2人だけの時間と場所を共有しているのに一向に縮まらない距離だとか、恋人のはずなのに触れ合いを求めない姿勢だとか…。
そういうのが段々気になり始めると止まらなくて、凄い嫌悪感に陥った。
監視をするために傍に置いて繋ぎとめているにすぎないのに、どうして、こんなに…。
苛立ちや欲求不満は日々高まって行き、ついにはプライドを勝ってしまった。
今回だけは、こいつの存在を利用してやればいい。
そう自分に言い聞かせて初めて彼女に触れたのは、いつだったか…。


そっと、手だけ触れて。
**の驚いた顔が忘れられなくて、もっと…触れたいと思うようになった。


僕らは、ゆるゆると距離を縮めていって、お互いに少しずつ心を許すようになった。
人前で隙を見せるなんて有り得なかった僕が、彼女の前では眠れるようになった。
読書中に邪魔されることを嫌い、その間家族にも触れられることを許さなかった彼女が、僕に背を預けての読書を好むようになった。


「むぅうう」


ぱたん、と本を閉じて僕から離れると、**は猫のようにしなやかに伸びをした。
僕もそれを見とめてから暇を潰すために読んでいた本を閉じて、苦笑を浮かべた。


「終わった?」


ええ、と頷く**に、僕は何も言わずに腕を広げた。
**は目を見開いた後、珍しい…、と呟き、照れ臭そうに僕の背に腕を回した。
ぎゅっと**を抱き竦める。
さらさらの髪を指で梳いて楽しみながら、その小さな頭に頬ずりした。


「どぉしたの…」


僕の肩口から顔を出して、至近距離でそう尋ねられた。
彼女らしくない気の抜けた口調の問いかけに、んー…と返事をごまかしながら**の額に唇をおしつけた。
**は困ったように笑いながら、こら、と微塵も怒りが感じられない声音で怒った。
僕の返事を大人しく待ちながら、答えることを強要しない。
僕は、**のこういうところがたまらなく好きだった。


「@@@が構ってくれないから、つい」
「えー…」


面倒くさそうに、彼女が唸った。
こういうとき、**は僕を本気で好きでいるわけじゃないんだな、と一抹の悲しさを覚える。
彼女の面倒事が嫌いな性質を利用してこの関係に至った訳だから、文句は言わないし、言えないのだけれど。


「うそ、冗談だよ。
 …ちょっと、そういう気分になっただけ」
「あ、ちょっと…、ん…」


**をソファに押し倒して強引にキスをした。
柔らかな唇を堪能したあと舌を這わせておねだりするも、**は頑なに唇を開かなかった。
諦めて顔を離すと、**は寝そべったままそっぽを向いて、やっと唇を開いた。


「 “そういう”気分なら、ベッドの上でしてったら…」


耳を真っ赤にして、小さな声で呟いた彼女の言葉を、僕は聞き逃さなかった。
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