29歳、好物は妻の作る味噌汁です。

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「初ちゃん、やっと調子戻ってきたね」

「あはは…、ご迷惑おかけしてすみませんでした…」


バイトの先輩の梓さん(とっても美人のお姉さん)は、ううん、そんなこともあるよね、と優しく笑いながら、手際良くケーキを用意していた。
梓さんの笑顔に癒されながら、私は用意したカップにコーヒーを注いだ。


ここ2週間ほど、私の仕事ぶりは酷いものだった。
カップは割るし、コーヒー注ぎ過ぎて溢れさせるし…とにかくぼーっとしてしまい、何度もミスをして梓さんや店長に迷惑をかけてしまった。
二人は、私の具合が悪いんじゃないかとか、何か悩みがあるんじゃないかとか色々心配してくれて、本当に申し訳なかった。
まぁ…原因も原因なので、まさかこの二人には話せるはずがなかった。



「そういえば、安室さんが辞めちゃってもう2週間か〜」



安室。

その名を聞いた途端、脳裏にぼんっとあの時の光景が浮かんだ。



『好きです、初さん』

安室さんらしくない、情けない顔。
切ない瞳、熱い声――――。


「アッツ!!!!!!」


ぼうっとしていると、指に熱い液体がかかって、驚いて声を上げた。
あっつ!あっつい!えっ、なに、コ、コーヒー!?


「初ちゃん、大丈夫!?」


梓さんの声にはっとして、急いで指を水で冷やす。
また、ぼうっとして失敗してしまった。

謝りながら、コーヒーの準備ができた事を伝えると、梓さんは心配そうに私を伺いながら、コーヒーを載せたトレイを持って、ホールに出ていった。
冷たい水で火傷しかけた指を冷やしながら、ふぅー、と長く息を吐く。


忘れたの、初。
安室さんは返事を待つって言ってくれている。
だから安室さんがふるやれいさんだとか、公安警察だとかなんだとか、そんなの、今すぐには考えなくていいんだから…。

どういう意図なのかはわからないけれど、安室さんは真剣にプロポーズしてくれたように見えた。
だから、もっと真剣に考えるべきなんじゃないかとも思うんだけど…。


でもムリ!!!!
考えれば考えるほど、頭ぐちゃぐちゃになって、何にも手がつかなくなる!!

おかげで、安室さんの存在が頭にちらつくだけで、あの夜を思い出してしまう。
そうすると、冷静さを保てなくなる。

……好き、とかではないと思う。
多分、プロポーズなんて生まれて初めてで、それが付き合っても何でもない、知人以上同僚以下くらいの間柄だと思っていた、イケメンからの告白だったから、だと、思う…。


「何唸ってんの、初さん」


結局悶々としてしまって、うぬぬ…と俯いて唸っていると、頭上から声が降ってきた。
顔を上げると、顔馴染みの男子高校生が、不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

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