白雪姫は朝靄のなか

□参
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最近、俺たちの仕事場である閻魔殿で噂になっている女性が居る。

絹のようなまっすぐの黒髪、円らな黒の瞳の美女。
紺の着物に黄色の帯をしていて、袖から覗く白く華奢な手もまた綺麗だと評判だ。
白い肌に映える桃色の唇と淡く染まった頬は幼く愛らしい。


どうやって派生したかは知らないが、『白雪』と呼ばれている。


幼馴染の茄子と、一度見てみたいなどと浮足立っていたのだが…。


「すみません!すみません!」


そんなことを話していたせいで、前を歩いていた女性に茄子が突進してしまい、女性が運んでいた善哉が床にぶちまけられてしまった。

茄子の頭をぐいぐい下げながら一緒に頭を下げる。

くそう、ついていない。



「まぁ、大変…。
 お二人ともお顔を上げて下さい…お怪我はございませんか?」



言われた通り顔を上げれば、噂の美女がそこに居た。
驚いて呆けていると、彼女は心底心配そうに俺と茄子の肩らへんをぺたぺたと撫でるように触れた。


「あっ、白雪さんだ!!」
「へっ」
「あっ、バカ茄子!」


目を輝かせた茄子を瞬時に叩く。
茄子は、いたい!と悲痛な叫びを上げた。


「あぁっ、いいんですよ。
 わたし、本名は宵と申します。
 白雪はあだ名のようなもので…驚いてしまっただけですから気にしないでください」



天女のようなお人だ、と感動してしまった。
お香さんは色っぽくて美しいが、この人…宵さんはまた格別に思われた。
やましいことより先に、ハッとさせられるような神々しさだ。


「へぇ、宵さんかぁ…いでっ!!
 唐瓜ぃ…痛いよぉ」
「というか、善哉!
 すみません、弁償します…」


宵さんは困ったように微笑んだ。
多分、俺たちの年齢を計りかねているのだと思う。



「宵さん、迷うことはありません。
 全額弁償で構わないんですよ」


「…ん?」



そこで、聞き慣れたバリトンボイスが背後で響いた。
ギギギ、とぎこちなく振り返れば、修羅のような顔をした恐ろしい上司が立っていた。


「お二人とも…食の恨みは深いですよ」


ぎゃああああああと断末魔のような悲鳴が二人分、閻魔殿に響いたのは言うまでもない。


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