白雪姫は朝靄のなか

□壱
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それはそれは美しい亡者だった。

裁判にかけられるようなこととは無縁で、清らかな美しい少女。
聞けば不治の病により若くして死んでしまったらしい。
成人にも満たない幼さと、儚い雰囲気は彼女を神様のように見せた。

しかも、現代の亡者には閻魔大王として認識されてしまう秦広王を一発で呼び当てた。
半ば感動したように目を輝かせて秦広王を見つめる彼女に、秦広王も裁判中だと言うのに思わず頬を緩めそうになっていたし。
(あれは娘か孫を見る目だった。)

勿論、誰の反対もなく彼女は無罪。
即天国行きが決まった。


「その知識もさることながら、よくご存知ですね、って褒めたら困ったように笑って『学はありませんが本が好きでしたので…』って謙遜するんです。
あの亡者はサクヤ姫とか、あのレベルの神々しいまでの麗人でしたよ。
もう衝撃的すぎて名前も経歴も未だに覚えていますもん」

「ほう…、珍しい方もいたものです。
 一度お会いしたかったですね」


居酒屋で同僚と出会い、先日のことを事細かに話せば珍しく興味を持ったようだった。
しかし彼女は全くの善人で、5回も裁判をする必要がない。
彼が担当する閻魔殿に行くようなことは起こらないだろう。
あぁ、閻魔殿と言えば。


「そういえば鬼灯様、閻魔大王の要請は本当に通していいんですか?」
「要請…?」


あ、そう言えばあの亡者、少しこの人に似ているな。
黒髪が美しいところとか、肌が白いところとか。
鬼灯の反応を待っていると、彼はきゅっと眉根を寄せた。
うわ、怖い顔。


「要請って、なんのことです」
「いや…なんでも、お茶汲みの女の子を雇うとか…」
「は…?
 なんですかそれ、聞いていませんけど…」


あのクソジジィ、と恐ろしい声音で呟く。
…これは余計なことを言ってしまったかもしれない。
閻魔大王、ごめんなさい。


「でも、鬼灯様が居るとなれば、応募して来る獄卒も多そうですねぇ」
「…もみ消そう」


疲れたように溜め息を零す鬼灯に少々同情する。
…と、そこで一つ思い浮かぶ。


「鬼灯さん、折角だから先程話した亡者にお会いしてみては?」
「…仮にも亡者を閻魔殿に雇わせるおつもりですか?」
「あはは、それは私もですよ」
「あぁ、そう言えば」


お名前お教えしますよ、と言えば、ふむ、と顎に手を当てる。
意外と言うか、やはり男と言うか。
彼が頷くのはなんとなく予想がついていた。

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