K×O

□王泥喜くんの事件簿・1
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「あ、ウマイ」

大粒のイチゴが乗ったショートケーキは、程よい甘さの生クリームとふわふわのスポンジ、間に挟まれた甘酸っぱいイチゴのバランスが凄くオレ好みで、素直にその言葉が口をついて出ていて。
シフォンケーキに近い軽い食感が凄く食べやすくて、あっという間に平らげてしまった。

「気に入ってもらえた?」
「あ、はい。ウマかったです、凄く」
「そう、良かった」

オレの感想を聞いた牙琉検事が本当に嬉しそうに微笑んだのが何だか妙に照れくさくて、つい視線をそらした。

のだが。

「オデコくん、クリームついてるよ」
「え、」


どこに。と返そうとして、オレの時間は完全に止まった。
牙琉検事が身を乗り出してきたかと思ったら、オレの口のはしっこを、ペロリと舐めた、から。

「な…」
「はい、取れた」

至近距離に、整った顔があって。
何が起きたのか理解するのには、少し時間がかかった。

「な、にしてんですかアンタは!?」
「ん?だってクリームついてたから」

何が「だって」なんだかサッパリ理解出来ない。

「そんなの自分で拭けますよ!つうか舐める事ないでしょ!?」
「え、だっておいしそうだったからさ」

だから何が「だって」なのか理解出来ない。心の底から。
そりゃあ絶大な人気を誇るガリューウェーブの牙琉響也にこんな風にされたら、女の子なら死ぬほど喜ぶのかも知れないけど。
それをオレに、と云うのはどぉぉぉしても理解出来ない。腹の底から。


「…検事も食べたいなら食べればいいじゃないですか。一個余るの、検事の分でしょう?」

差し入れのケーキは全部で五つあった。
一つは既にオレの胃袋の中。三つは成歩堂さんとみぬきちゃんと神乃木さん。
とすると一つ余るのだから、普通に考えれば、これは牙琉検事の分だろう。

なのに。

「ああ、それはオデコくんの分だよ。キミにだけ2つ買ってきたんだ」
「は?」
「まあ、ボクの気持ちってヤツかな」
「………」

オレはこの瞬間、この人は宇宙人なんじゃないかと思った。ちょっとだけ。
だって。何なんだ。皆には一個ずつなのに俺にだけ二個とか。全っっっく理解出来ない。宇宙の底から。

再び固まるオレの態度をどう捉えたのか、牙琉検事はまたニコリと笑みを作って。
あろうことか、さっき舐めたオレの口のはしっこに、チュッ、と。自分の唇をあててきたのだ。


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