K×O

□王泥喜くんの事件簿・1
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正直言って、オレはこの人がニガテだ。

検事とミュージシャンの掛け持ちで多忙な割には神出鬼没で、いきなり現れて驚かされた事は数知れず。
キザな言い回しにはいつも赤面させられっぱなしだし。
過剰なスキンシップを拒めば捨てられた子犬の様な顔をされて、みぬきちゃんに叱られる(何でオレが叱られるんだ?)し。
人を「オデコくん」だなんて変な呼び方するし。
大体、神乃木さんがいつの間にかオレを「デコスケ」と呼ぶ様になったのだって、絶対この人がオデコオデコと連呼してるせいだ。
だって神乃木さんは、この人が事務所に入り浸る様になる前は、「ボウズ」と呼んでいたんだから。
まあどっちも大して変わらないけど―――。

そこまで考えて、何だか酷く虚しくなった。




「うん、やっぱりオデコくんが淹れてくれた珈琲はおいしい」
「はあ。どうも。」


オレの心中を知るはずも無い眼前の青年――牙琉検事は、実に優雅な…というか格好ついた仕草でカップの中身を一口飲むと、僅かに口を離してニコリと微笑んだ。
この笑顔にオチる女の人は星の数ほど居るのだろうと容易に想像がつく。
男のオレですら、ちょっとだけ(あくまでちょっとだけ)ドキリとしてしまうんだから。


「神乃木さんがもの凄く珈琲にこだわるんで、機材(?)が充実してるんですよ、ここ」
「確かにこの薫りやコクは、手軽で安いインスタントじゃ出せないだろうね」

神乃木さんが自ら買い出しに行く珈琲豆は、インスタントを愛用しているオレには信じられない様な値段で、興味本位で聞いてしまってからは気軽におかわり出来なくなってしまった。
神乃木さんにしごかれたという成歩堂さんにしごかれて、淹れるのだけは上手くなったのだけど。

「でもさ、こんなに美味しく感じるのって、良い珈琲だからってだけじゃなくて、オデコくんが淹れてくれたからだよ。オデコくんのハートが、この珈琲にたっぷり詰まってるんだね」

……何を言ってるんだろうか、この人は。

余りにもクサイその言い回しに固まるオレに、トドメと言わんばかりの笑みを向けた牙琉検事は、また一口珈琲を味わってからカップをソーサーに置いた。

「オデコくん、どうかした?口、開きっぱなしだけど…」

誰のせいだ、誰の。

何だかもうツッコむ気にもなれなくて、土産に貰ったケーキを口に入れたのだけど。


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