Y×O

□昼食3
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「御馳走様でしたっ」

ようやくカレーを完食したオレは食器を片しにキッチンに向かう。
先に食べ終えてカレー皿を洗っているユガミ検事の横に立つと、ひょいっと手の中の皿を奪われてしまった。

「あっ、ユガミ検事、オレがやりますよ」
「ウマいカレーの礼だ。気にすンな」
「あ、ありがとうございます」

折角なので好意に甘える事にして、冷蔵庫を開ける。貰い物の桃がひとつ、ちょこんと鎮座していたのを見つけ、ユガミ検事に声をかけた。

「ユガミ検事、桃好きですか?」
「あア?」

ちょうど最後の1個なんで、と言うとユガミ検事が頷いたので、小皿とナイフを出してからソファに戻って剥いていく。

綺麗に等分したところで皿洗いを終えたユガミ検事がやってきて、いただくぜと言ってひと切れ摘まんだ。

「あっ、ちょっと!何で手掴みなんですか!」
「あア?いいだろうが」
「手が汚れるじゃないですか。今フォーク持ってきますから」
「いらねエよ別に」

そう返したユガミ検事は豪快に一口で桃を食べ、指をペロリと舐めた。

「ウメェ桃だぜ。お前さんも食ってみな」
「はあ…」

マイペースな人だな…。まあ今更だし、いいけど。

やれやれとフォークを取りに席を立とうとしたオレは、ユガミ検事に腕を掴まれた。

「男なら豪快に行きな泥の字。フォークでちまちまなんざ、女子供のやる事だぜ?」
「いや、それ行儀の問題なんじゃ…」
「つべこべ言ってンじゃねえぜ」

ほら、と続けたユガミ検事は桃をひと切れ摘まむと、オレの口元に差し出してきた。

「え?」
「え?じゃなくてさっさと口開けな」

いやいやいや。おかしいだろこれは。
これって所謂あーん、ってやつだろ?それを何でオレがユガミ検事にされなきゃいけないんだ??

「おい、汁が垂れるだろうが。さっさと食いな」
「いや、でも」
「デモもストもねエぜ。ほら食え」
「もがっ!」

焦れたユガミ検事に強引に突っ込まれ、目を白黒させつつ咀嚼する。ご、強引な人だな…。

ひと切れを一気に突っ込まれたせいで苦戦したもののどうにか飲み込んで、ふた切れ目を口にするユガミ検事を精一杯睨んでみた。


「ちょっと!無理矢理突っ込む事ないでしょ!?」
「お前さんがチンタラしてっからだろうが」
「普通は躊躇いますよ!」
「ヘッ。口に食べカスつけて文句垂れても説得力ねエぜ?」
「えっ!?」

どこに?と慌てて手の甲で拭おうとしたら、その手をガシッと掴まれて。
ユガミ検事が性質の悪い笑みを浮かべた…気がした。


「さっきの礼だ。俺が取ってやらア」
「え?っ、」

何が起きたのかわからない。

次の瞬間にはもう、ユガミ検事の顔が目の前にあって。
そして、ペロリと舐められたのは下唇で。

そして。

「…っ!?」

何が起きたのか…わからない。

オレの唇を塞いでいるのは、何だ…?

近すぎてぼやけるユガミ検事の目元。
背中はソファの背もたれに押し付けられて動かない。いや、動けない。

何が…起きてるんだ?

「んン…っ」

くちゅ、と粘着質な音が耳に届くのを、どこか他人事のように聞いているオレがいた。

頭の芯が痺れて、身体に力が入らなくて。

何が起きているのかなんて、全然。


最後にまたオレの下唇をペロリとやってから離れたユガミ検事は、視線が合うとニヤリと笑った。

「御馳走さん」

デザートもウマかったぜ?と告げたユガミ検事が席を立つ。
その背中が見えなくなってから、オレはへなへなとソファに倒れ込んだ。


(………っ刑務所暮らしだった人が何であんなにキス上手いんだよっ!?)


散々に口内を翻弄されたオレは、しばらくその場を動けなかったのだった…。





真のデザートはオドロキくんっていうアレ。(どれ)
2013.8.23

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