Y×O

□接触
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・接触




「ギン、おいギン、」

裁判所内を闊歩しつつ、溜め息混じりに呼ぶ相棒の名。
散歩の途中で肩から離れて飛んで行った相棒のギンは利口な奴で、いつもならキチンと戻ってくるんだが。

「どこ行っちまったんだギンの奴…?」

ったく、もう少しで法廷に戻る必要があるってのにどこで油を売ってやがるんだか。
まあ放っておいても勝手に法廷に飛んできて肩に乗ってくるから別に構わねぇが。

「ん?」

とある控え室を通りかかると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。成の字の所の青びょうたんだ。
ついでだ、ギンを見ていないか聞いてみるか。

「おい、そこの青びょうたん」
「んぐ?」

振り返った青びょうたんはどうやら給水機で水を飲んでいたらしく、手の甲で口を拭いながらこちらを見た。

「あれ、ユガミ検事?」

どうしたんですか?と訊ねてくるコイツの、頭の2本の触角がぴょこんと揺れているのが何だか笑える。ウサギに似てやがるな、何となく。

「ユガミ検事、番刑事は一緒じゃないんですか?」

囚人の俺が一人で歩き回っているのが不思議らしいコイツは、若干首を傾げて訊ねてきた。

「オッサンなら散歩中に犬の尻尾踏んづけて追っ掛けられて逃げてったぜ。そのうち戻ってくるだろ」
「はあ…」

大丈夫かあの人…とでも言いたげな表情が面白い。裁判中も思ったが、このコロコロ変わる表情を見るのは飽きる気がしねえ。

「それより、ギンを見なかったか」
「ギン?ああ、あの鷹ですか?さっき見ましたけど…」
「見たのか。いつだ?」
「えっと…10分くらい前です。トイレの傍で裁判長の頭に乗ってました」
「…」

ギン、何やってんだお前。

「探してたんですか?」
「まあな。だが裁判所内にいるならもうその必要もなさそうだ」
「そっか、良かったですね」
「……」

ニコリと笑みを見せるサマに、どこかが擽られる。
それが何かはわからなくて、だが、目の前のコイツが答えを持ってる気がして、静かに距離を詰めていく。

「?ユガミ検事?」

距離が縮むにつれて身長差から上目遣いになっていくのが笑える。
つい、チビだなお前。と溢したら、あからさまにムッとされた。

「ゆ、ユガミ検事が大きすぎるんですよ!」
「ああ、チビな分デケェ声で虚勢張ってるワケか。ご苦労なこった」
「んなっ!?」

ムッカー!とでも擬音が付きそうな反応が愉快で仕方ない。オッサンといいコイツといい、何で俺の回りにはリアクションのデカい人間が集まるんだか。

「し、失礼な人ですねアナタはっ!」
「そりゃ今更だなァ」
「…それもそうですね」
「ヘッ、中々素直じゃねえか」
「あ、いや、その。す、すみません」
「別に構わねぇさ。歪んだ性根はそうそう直らねえしな」
「はあ…」

何故か肩を落とす姿はまるで小動物だ。コイツは中々見ていて飽きないかもしれない。

「あの…まだ何か用があるんですか?」
「あァ?」
「いや、だって目の前に立ったままだから」

その言い分は尤もだ。用もないのに真ん前に立ってるなんざ、邪魔でしかないだろう。

用がないなら、なァ。

「あるぜ、用なら」
「え?」
「なあ、青びょうたん」
「あ、青びょうたんじゃありません!王泥喜法介ですっ!」
「何でもいいが、まだ水滴がついてるぜ?」
「えっ!?」

慌てて頬やら顎やらを手で拭い始めたが、見当違いもいいところだ。なんせ水滴がついてる場所ってのは…。

「そっちじゃねえよ」
「え?」
「ジッとしてろよ」
「え…」

ジャラ、と鎖の音が鳴る。顎を掴まえて舌先でペロリと水滴を拭った場所は、下唇だ。

「取れたぜ?」
「…な、な…っ」

至近距離で見た表情はそれはそれは滑稽だった。タコみてぇに真っ赤になってワナワナ震えていて、笑いを堪えるコッチの方が震えそうだ。

「な、なななな何してるんですか!?」
「あァ?拭いてやっただけだろうが」
「普通に拭いてくださいよ!ハンカチ使うとかあるでしょ!?」
「舐めた方が早えな」
「知りませんよ!とにかくさっさと離れてください!」
「わかったわかった」

小型犬みたいにキャンキャン喚かれちゃあ、うるさくて敵わねえ。距離を空けると一目散にドアへと向かう背中に、おい青びょうたん、と声を掛けた。

「だから、青びょうたんじゃなくて…」
「まあ聞け」
「何ですか?」
「また口に何かつけてやがったら拭いてやるぜ、ホースケ?」
「なっ!?か、からかわないでくださいっっっ!!」

バターン!と壊れる勢いで閉まるドア。その向こうに消えたアイツの、耳まで真っ赤になった様は最高に俺を楽しませてくれた。


ヘッ、こいつは当分退屈せずに済みそうだ。







ユガミ検事に萌え転がり、クリアした勢いのままにジャスティス!←?
再プレイで口調違い等に気付いたらコッソリ直します…。
2013.8.9

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