教授のパスタ

□レモン風味のカルボナーラ
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「あれ。いつも間に…」自分は眠っていたんだろうか。
まだぼやけている視界の中、谷塚葵は凭れかかっていた一人がけソファから身を起こす。
大きく伸びをし、右手をぐっと握りしめると、3本の指がコキコキと音が鳴る。
これが、葵の寝覚め時の癖である。

まだ、目元がずんと重い。
先週一週間は、学会提出の期限に加え、雑務が多く、文字通り山のように積まれていた書類を片付け、休みの日もさらに読書に耽っていた。その疲労が、ずんと圧し掛かるのだ。
「目によくないよなぁ。俺は近視でもないから。」老眼になるのは早いよな、きっと…
一番気にしている部分は、心の中で呟いた。

先週は大学での勤務が終わるころには、日付が変わろうかとしており、クタクタになった体を、終電に滑り込ませることが多かった。
アジトでの料理係は、葵と決まっている。が、全く夕飯を作れなかった一週間、葵の代わりに、伊達がキッチンに立っていたらしい。毎晩、深夜に葵がアジトに帰ると、『葵の分』と書かれた紙と共に、ラップにくるまれたご飯が食卓の上に置かれており、その時まだ起きていたアジトの誰かが、「お帰り。」の声と一緒に、ご飯を温めなおしてくれた。

こう居心地がよいと、自宅に帰る回数は自然と減ってしまう。気づけば1週間も、放りっぱなしにしていた自宅に、一旦帰った。
掃除や、メールBOXの整理、クリニーングの出しと引き取りなどを済ませ、再び1週間分の荷物をバッグに詰め込み、車でアジトへ戻った。こんなにアジトに入り浸っているくせに、自宅のマンションを手放さないのには、それなりの理由があるのだが、それはまだ誰にも明かしたことはない。
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