人魚恋捕物帳
□其の六
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「オイ、香撫」
『あ?』
それは遠野でのある昼下がり、洗濯籠を片手に歩く香撫の後姿に呼びかけたのはイタクだった。振り返り首を傾げた香撫にイタクは言葉を続けた
「赤河童様が呼んでる」
『赤河童が?何の用だろ』
「俺が知るか」
『そりゃそうだ、天馬洗濯物干しといて』
「はーい」
天馬に洗濯物をたくしイタクと香撫は赤河童の元へと歩き出した。何も悪いことはしてないはずだと思いながら入った赤河童の部屋で座る前に言葉が飛んできた
「お前海牙は探さないのか?」
『いや、その』
「面倒以外の理由が聞きたい」
「海牙」
『あ、イタクは知らないよな?海牙ってのはあたしの雷爪と対になる刀なんだ』
「さよう、雷爪が空を駆ける昇り龍の爪なら海牙は海のごとく静かで全てを無に返す龍王の牙で出来ておるのだ」
『雷爪と海牙は二つで一つの刀なんだ』
「・・・て事は」
「持ってないのが不自然だな」
『いや、だって雷爪は簡単に見つかったけど、海牙は中々見つからないし』
「そこ面度くさがんなよ」
『だってー』
「いいからお前探して来い、今は雷爪も大人しいがじきに海牙がないのをいい事に暴れるだろうしな」
『分かったよ!行くよ、行きますよ!』
だー!っと叫びを上げた後に頭をがしがしと掻いてムスッとした顔をしながら赤河童に背を向けた残されたイタクは赤河童を見た
「イタク、お前付いていけ」
「はっ!」
イタクが部屋から出て行った後、赤河童は煙管を吹かしながら部屋を漂う煙を目で追った
「奴もとことんお人よしと言おう奴だな」