人魚恋捕物帳
□外伝壱
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遠野で一番古く、一番大きな木。なんの木かは知らないがその木は今の時期白い花を咲かす、これは香撫が遠野に来て少しした頃の話
『―――』
風が吹いて木々がざわつく中微かに聞こえてきたのは歌だった。歌詞なんてないメロディーだけのそれに誘われるように俺は歩き出した、近づく度にはっきりと聞こえてくる
「香撫?」
『、?イタクかどうした?』
「お前こそ何してんだよ」
大木の上の方、遠野で一番古く一番大きな木名前も知らない木の枝に腰掛けて香撫は歌を歌っていたのだ。側に行こうとその大木を上る鎌鼬の俺からすれば造作もない事だった
『流石だね、早いもんだ』
「当たり前だ」
『あたしは一時間もかかったのに』
「そりゃお前が人魚だからだ」
そっか、なんて言いながら香撫と同じ木の枝に腰掛けた枝の根元に腰掛大木に寄りかかるようにしてこちらを見る目はぼんやりとしていて柔らかい
『この花綺麗だな、雪みたく白い』
「あぁ、名前はしらないが昔からある木らしい」
『ふーん?そうか』
そんな事を話していたら不意に俺の方に手を伸ばしてきた肩に手を置いてその手が何かを指先でつまみ離れていった
『花びらついてた』
「そうか」
『花は散り行く姿も美しいな、あたしも最後は花のように散りたいよ』
指の間から花びらがすり抜けてひらひらと舞い落ちる、香撫は時々こういった事を口走る今回が初めてではないから特に気にも留めなかった
「お前も頭につけてるぞ?」
金にはあらりにも馴染まない白は簡単に見つかったその花びらを取ろうと伸ばした手が引き返す事はなかった。初めて触れたその金は柔らかくて触り心地がいい髪からはもう花びらはないのにその感触が名残惜しくてそのまま髪を撫でた
『イタク?』
不思議そうな声で名前を呼ばれたが返事はしなかった、何でだろうか香撫はとても儚く見える存在や物言いははっきりしているが姿形や雰囲気が異様なまでに儚いんだ。今にも消えて無くなりそうなんだ
「お前は、」
『??』
「お前は花と同じだな」
儚くて、一瞬にして散る花だからこそ美しいと言う奴もいる。それは強くて優しい存在
『っ、イタ』
気づいた時には香撫を抱きしめていた。脈略のない俺の行動に香撫が俺を呼んだ
「(細いし小さすぎる)」
その体はあまりにも細くて華奢だった男の俺と比べたらその差は一目瞭然だ、それに甘い匂いがする花か果実の類じゃない欲を掻き回されるような匂い。
『どうした?』
「お前ってほんとヤバイよな」
『ヤバイ?どのへんが?』
「全部、存在そのものが媚薬みたいだ」
『??』
獣としての本能を揺さぶり、掻き立てられる今すぐにでも自分のモノにしたくなるこれが制服欲と言うものだろうか?他者に対して覚えた事のない感覚だが本能がそう訴えかけるほんの少し体を離して見つめた紅い目が微かに揺れた。本当に無防備で危機感が全く見受けられないこのままだと箍が外れそうだ。
『わっ!?』
急に手のひらで目を覆ってやったら驚いたような声を上げたこのまま唇を奪おうか、そしてこの純を汚してしまおうか、そんな欲望まみれな考えが頭を過ぎった