KIRI-REQU
□君が好き
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中在家長次について語れと言われても、なかなか説明しにくいんだが……、だけどこれだけは言えるんだ。
中在家長次は、俺にとって、何よりも大切な想い人なんだってこと。
「長次ー!忍具についての本とかって置いてあ…………。」
るのか?
そう続けようとしたが、思いきり睨まれ、自分が知らず大声だったことに今更気付いた。
「わりぃ。うるさかったか?」
「………………留三郎の声は、よく通るからな……。」
遠回しにうるさいと言われ、ポリポリと頭を掻く。長次の姿が目に入っただけでテンションが上がってしまったのだからしょうがない。
「………………そんだけ……好きなんだよなぁ……。」
「……?何がだ?」
ポツリと声に出してしまってたみたいで、俺は慌てて手を振った。
「な、な、何でもねぇよ!そ、それより、忍具の……」
「?……あぁ、それなら此方に……。」
立ち上がり歩き出す長次の後ろについていくと、とある本棚の前にたどり着いた。
「この本なら、ちょうど良いと思う……。修理に、使うのだろう?」
「えっ。」
何も言ってないのにズバリ当てられ、俺は驚いた。実技の授業で使う武具が幾つか壊れており、それらを直すには構造を知っておく必要があった。だから、図書室ならあるかと思い訪ねたのだが……。
とりわけ分かりやすい物を……と、長次が選んだ本を差し出してきた。
「……な、何で、分かったんだ?」
どぎまぎしながら本を受け取り、長次を見つめる。
「…………留三郎は、分かりやすいから、な。」
よく見てなきゃ分からないくらい小さく口端をニッと吊り上げ長次がイタズラっぽく笑う。
きっと、他の奴は気づかない。ずっと見つめてきた俺だから分かるんだ。自惚れかもしんないけど。
(でも、笑ってるとこ見られるなんて、今日はツイてる。)
いつも見せる怒ったときの不気味な笑いが強烈すぎてあまり知られてないけど、微笑んだ長次はホントに可愛い。すごく、可愛いんだ。
「…………留三郎?」
無意識に長次の手を握ってたみたいで、長次も、もちろん俺もすっげぇビックリした。どうして手を握られたのか分からない長次が、じぃっと俺を見つめてくる。長次は、人と話すときは絶対に目を逸らさない。それに気付いたのは、いつの頃だったか……。
「…………長次、俺…………。」
ちょうど死角になっている場所だからか、二人きりのような空間に押され、俺は長次との距離を詰めた。
今なら……言えるんじゃないか?
「俺……長次の事が……」
澄んだ長次の瞳に吸い込まれるように、顔を近づける。まさか接吻されそうになっているなどと露とも思っていない無防備な顔が、俺に火をつける。
「…………とめ……」
あと少しで唇が合わさる。
だが、その時。
「長次。」
「っ!…………文次郎?」
急に呼ばれた長次が反射的に振り向き、俺との距離が開いた。
あと少しだったのに。そう思いながら邪魔をした張本人を恨めしそうに見やる。
予算のことで話があると言う文次郎に、長次の意識が完全に持っていかれて、少し……いや、かなり面白くない。
予算案を確認しながら離れていく二人だったが、一瞬だけ文次郎が俺を振り返った。
「っ!」
俺は、自分で言うのも虚しいがけっこう単純だから、好きになったらソイツしか見ない。っていうか見えない。周りがどうだろうが、長次の顔やさりげない仕草とか見れたら、それで十分だったから。
だけど、初めて、今ようやく周りが見えた。いや、気づかされた。長次を想っているのは自分だけではないのだと。
去り際に見せた、文次郎の憎悪の視線によって………………。