anniversary☆book

□仙様の憂鬱
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「……私の通り道で堂々と寝るな。」


「ぐぇっ!?」





ドカッと腹に衝撃を受け、文次郎がうめき声を上げる。


「なっ、何しやがる仙蔵っ!!」


「ふん、文次郎の分際で私の通り道を塞ぐからだ。」


鼻を鳴らして見下してくる仙蔵に、文次郎は文句を言いかけたが、グッと飲み込んだ。言ったところで何倍にもなって返ってくるのだ。ここは黙っておいた方が得策だろう。今までの経験でそう学んだ。


文次郎が何も言い返して来ないことに仙蔵は面白くなさそうな顔をするが、もうお前に用など無いとばかりに立ち去っていく。




「…………………………ちくしょう、こっちは四撤明けでやっと寝付けたとこだったってのに……っ!」


ブチブチ文句を垂れながら自室へと向かう。まぁ、確かに廊下に転がってりゃ誰だって邪魔だろう。でもしょうがないではないか、こんなポカポカした日に日向ぼっこしてたら眠くなって当たり前だ!つうか、何も踏みつけなくてもよくね?邪魔なら飛び越えるとか、なんか方法があっただろうに!




「くっそー…………天の邪鬼っつーか、ひねくれてるっつーか…………。」




「もっ、文次郎ぉおおおおーーーーーーーっ!!!!!!!!!!」




「うぉあっ!?」




部屋へと入ろうとした瞬間後ろからしがみつかれ、文次郎がつんのめる。何事かと振り返れば、何とも情けない顔をした伊作がこちらを見上げていた。



「…………どうした伊作。ボロボロじゃねーか。」



「ぅううーーーっ!!仙蔵をどうにかしてよ!作法委員に落とし穴を作らせてて……っ!保健委員はもうボロボロなんだよぅ!」



僕なんて、ここに来るまで5回は落ちたんだからっ!と泣きわめく伊作に、文次郎は同情するしかなかった。



「つってもなぁ……仙蔵が俺の言い分聞くと思うか?」



「っ…………。でも、文次郎が一番仙蔵と一緒に…………あれ、留さん?」



二人の目の前を、留三郎がフラフラと通りすぎる。まるで、文次郎と伊作の姿など見えていないかのように……。



「と、留さん!?ちょっと、大丈夫!?」


明らかに様子がおかしい留三郎に、思わず伊作が声をかける。ようやく気がついたらしい留三郎がこちらを振り返った。


「うわ……。留さんキモ。」


「………………おい、留三郎。何だその汚ねぇ面は。」




伊作と文次郎がドン引きするのも無理はなかった。留三郎が顔から出るもの全てを垂れ流していたのだから。



「い、いざぐぅう〜、もんじどぉお〜!」


鼻声で情けない声を上げながら、留三郎が駆け寄ってくる。


「ちょ、ちょっと留さんストップ!汚いから傍に来ないで!」


「…………おいおい、何があったってんだよ?」


長年連れ添った級友から全力で拒否られる留三郎を憐れに思い、文次郎がしかたなく問いかけてやる。すると、よくぞ聞いてくれたとばかりに留三郎がつい先程おきた出来事を語りだした。





「そう、あれは、委員会活動中のことだ………………。」







いつものように委員会の下級生達と戯れ………………いや、修復作業をしていたのだが、ふと視線を感じ顔をあげると仙蔵が自分をまるで汚物を見るような目で見つめていたのだ。その目が軽蔑するように語っていたのは分かった。しかし、それには慣れている。今まで何度S蔵の餌食になったと思ってやがる!何のダメージも受けない自分に仙蔵が舌打ちしたのが見てとれた。悪いな、今日は俺の勝ちだぜ……。その優越感に浸っていた時、それは起こった。




「しんべエ、喜三太、ちょっと……。」


「「あ、立花せんぱーい!!」」



それまで物陰に隠れていた仙蔵が姿を現し、しんべエと喜三太を手招きした。嬉しそうに駆け寄る二人に何事か耳打ちして、仙蔵はさっさと立ち去る。



「何だったんだ、仙蔵のやつ……。」


不審に思う自分のところへしんべエと喜三太がとことこと戻ってきた。



「「食満せんぱーい!!」」


「おー、どうした?」



満面の笑顔で自分に駆け寄ってくる二人を、同じくらいの笑顔で両手を広げ迎え入れる。そして、キラキラでクリクリのきゃわゆい目で自分を見つめ言ったのだ。
















「「ショタコンテラキモス!」」



と………………。




















「酷くねぇか?酷いだろ!?俺の天使たちにあんな言葉を覚えさせるなんて!!」



拳を握りしめ怒りに震える留三郎に、伊作と文次郎は何と声をかけて良いのか分からなかった。


(……どうしよう、留さんが気持ち悪い。)


(さっきの話で同情どころかキモさしか感じないんだが…………。)



そんな二人の胸中も知らず、「いや、分かってんだ。あの二人が意味も分からず言ってるんだろうってことくらい。」とますます話がヒートアップしそうだ。




「と、留さん。とりあえず、続きは食堂でお茶でも飲みながら、ね?もう夕飯の時間だし!」


伊作の提案に、留三郎が大人しく従う。しかし、3人連れだって食堂へと向かう途中であるものを目撃してしまい、思わず立ち止まってしまった。




「………………仙蔵?」




3人の視線の先に、木の幹に隠れて前方を窺う仙蔵の姿があった。こちらの気配に気づくことなくただただ何かを待ち構えているように見える。



「何やってんだ、仙蔵のやつ………………あ。」




文次郎が声を上げたのと、仙蔵がハッと顔を上げたのがほぼ同時。二人の視線の先には、大量の書物を抱え廊下を歩く長次の姿があった。



「え、長次!?あんまり重いもの、まだ持っちゃダメだよって言ったのに!」



伊作の言葉に、文次郎と留三郎が不思議そうに顔を見合わせる。



「長次、この前の実習で腕を怪我してるんだよ。まだ完治してないから、あんな荷物を持つのも辛いはずなのに…………!」


「「何だって!?」」



慌てて3人は長次の所へと飛んでいこうとしたが、それより早く仙蔵が動いた。









「ち、長次!奇遇だな!」



まるで、今通りかかったよーとでも言うような雰囲気で仙蔵が長次に歩み寄った。



「仙蔵……。」


「重そうだな。私も手伝うぞ。」


「しかし…………。」



渋る長次から、有無を言わせず書物を全て奪い取った。ズシッと腕にのし掛かる重みに、仙蔵の眉間に僅かに皺がよる。



「仙蔵、無理するな。私も、持つから……。」



よろけながら歩を進める仙蔵を、長次が慌てて追いかける。



「…………バカ者。遠慮などしているバヤイか。不破あたりにでもやらせれば良いものを……。怪我を悪化させる気か?」


「っ!なぜ、それを…………。」


皆にいらぬ心配はかけたくないと黙っていたのに……。だから、怪我のことを知っているのは手当てをしてくれた伊作だけなのだ。



「見ていればわかる。…………手当は無理にしろ、包帯を変えるくらいは私にも出来るのだぞ。」



ずっと、長次が自分から言ってくれるのを待っていたのに、いつまで経ってもその気配はなく伊作に頼ったまま。それが悔しくて、むしゃくしゃして、八つ当たりのように文次郎達を苛めた。




「私とてバカではない。長次が心配をかけまいとしたことだと分かる。しかし………………こういう時にこそ、恋人に頼られたいと思うのは、当たり前だろう?」




恋人、という単語に二人の頬が赤くなる。



「………………だから、その、な?私はもっと長次に頼られたいし…………甘やかしたいのだ。」


「仙蔵…………。」



よほど自分で言った台詞が照れ臭かったのか、仙蔵が顔を隠すように俯く。長次は長次で、仙蔵の重荷にだけはなりたくないと思い、いろいろと我慢していたのだ。




「……………………仙蔵、今夜…………部屋に行って良いか?」



「っへぁ!?」


「………………実習で、会えなかったぶん…………仙蔵に、甘やかされたい…………。」



「も、もちろんだ!文次郎は追い出しておくから、その……!いっぱい、可愛がってやるからなっ。」



ニコニコと上機嫌になる仙蔵に微笑み、長次は仙蔵の荷物を半分取り上げ、右腕で抱えた。


「…………怪我をしたのは、左腕だけなんだ。」


慌てる仙蔵を制し、長次は左手を差し出す。その意図に気づいた仙蔵は、左腕で書物を抱え空いた右手でその掌を包み込んだ。






























「何あれ………………。」



一部始終を見ていた伊作が呆然と呟く。つまり、いままでの仙蔵の迷惑行為は拗ねによる八つ当たりだった、と?



「つか、俺は今晩どこにいけと?」


「うーん……。長次を取られた小平太を慰めてやったら?」


「バカタレ!小平太の長次への執着度を知らないのか!?もしこのことがバレたら、俺の死亡フラグが」



「…………わぁい。今晩、もんちゃんが私と遊んでくれるんだぁ。」




「「「!!!?こ、小平太……!」」」




恐る恐る振り返った3人の目の前に、今ここに居てはならないヤツがいた。口許は笑っているのに仙蔵と長次を見つめる目が笑っていない。



「………………今夜は、3人とも寝かせないからね?」




「「「マジすか……(T-T)」」」






その翌日、身体中包帯まみれの3人が恨めしそうに、長次とラブラブする仙蔵を見つめていたとかいなかったとか。









〜END〜



あらら?仙長のつもりが、文留伊の死亡フラグ話に(^q^)


仙長とは言えないような話ですみません……。仙蔵だと、変態か鬼畜かしか書かないので、甘酸っぱい仙長書くの楽しかったんですけど、ほんの少しだけっていうね……。


いつか、この話の甘裏でも書いてみたいなぁ。





では、仙長への投票ありがとうございました!








 
 

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