NOVEL

□おでかけ
1ページ/1ページ





忍タマン















「魔王ーーー!これ、この肉で良いのか?」


「ちょっと、七松サン。魔王様に馴れ馴れしいッスよ!」



「魔王、この野菜身体に良いんだよ。あと、これも…………。」



「…………さりげなく魔王様の肩を抱かないでいただけますかグリーン?」




「うるさいぞお前たち!スーパーで騒ぐなバカタレ!!」



文次郎の一喝でそれまで騒いでいた野郎共が静まりかえった。ここは、魔王や忍タマン御用達の商店街内にあるスーパー。その店内には、忍タマンと魔王御一行という何とも珍しいメンバーが揃っていた。



「魔王、邪魔だったら遠慮なく言えよ。コイツら調子に乗るからな。」


文次郎の言葉に魔王はフルフルと首を振った。


「いや……賑やかなのは、良いことだ。」

騒ぐ男たちを見つめながら、魔王がどこか懐かしそうに目を細める。


「…………私たちを、誰と重ねている?……………………少々妬けるな。」


そんな魔王に気づき、忍タマンパープルの立花仙蔵が、魔王の髪を撫でた。魔王への恋心を自覚したとたん遠慮のなくなった彼の行動はいっそ清々しい。


「………………何でも、ない。…………それより、今日は……誘ってくれて、ありがとう…………。」


首を傾げて小さく笑う魔王に、忍タマンと四天王の野郎共は胸を鷲掴まれた。今日は、正義のヒーローと魔王御一行というあり得ない組み合わせでBBQを行うのだ。たまたま魔王が興味深そうにBBQのチラシを見ていたのを目撃した留三郎と伊作が、他のメンバーに相談した所、じゃあ魔王を誘ってBBQに行こう!ということになった。まぁ、必然的に四天王もついて来てしまうのだが。



「まったく!人間は油断ならないな!隙あらば魔王様に手を出して……!」


憤慨する人喰い鬼の久作だが、10歳児の姿で凄まれても全然恐くない。


「…………久作、心配しすぎだ。」


当の魔王本人が全然警戒心を持っていないのだから、どうしようもない。久作はため息をついて魔王の手を握った。


「……魔王様がそう仰るのなら……。さあ、早く材料を買って行きましょう。車の中で待ってる怪士丸も退屈してるでしょうから。」


怪士丸は昼間は蛇の姿になってしまう。こんな人前に来ては駆除されかねないので今は車の中で留守番だ。雷蔵ときり丸も普段は動物の姿だが、魔王が心配すぎて気合いで人型を保っている。



「あっ!こらクソガキ!何て羨ましいことを!!」


留三郎が羨ましそうに手を握る二人に目を寄越すが、それを完全シカトして久作はポイポイと材料をカゴに積んでいく。


「………………久作先輩、なかなか食材を見切る力が付いてきたっスね!」



あれもこれもとやけに多すぎる食料を買い込み、一行は車に乗り込んだ。車に入ればきり丸と雷蔵はそれぞれ狐と蝙蝠の姿に戻る。でなければ、定員オーバーで乗れないのだ。最初は2台で行くはずだったが、皆が魔王と一緒が良いと譲らなかったのである。














しばらく車を走らせれば、樹木が覆い繁る山に入っていく。さっきまでのビルの街並みがウソのように……。



「……………………あ、大変。」



それまで魔王の膝で眠っていた怪士丸がふと呟いた。何が…………と問おうとしたその瞬間。




ボンッ




「うおぁっ!?」


久作を挟んで隣に座っていた文次郎が悲鳴を上げた。蛇がいきなり人の姿になったのだから無理もないが、その青年の青白さにも正直ビビった。一度見たことはあるのだが、どうしてもコイツだけは慣れない。



「…………ごめんなさい、魔王様。重いですよね……。ボクの膝にどうぞ。」



人型になった怪士丸がヒョイと魔王を抱き上げ、膝に座らせた。魔王は慣れているのか抵抗なく座っている。どうかしたのかと問う久作に、怪士丸がポツリと呟いた。



「……ここ、すごい霊力が満ちてますね……。だから逆に、それに当てられて蛇の姿が保てないんです……。」



「……………………だろうな。…………相変わらずだな、この山も…………。」



「…………?魔王様、以前こちらに来たことが……?」


不思議そうに見つめる怪士丸に、魔王は頷いた。まぁ、来たのはホントに前だ。確か50年くらい前だったか…………。





思案に耽る魔王だったが、車は目的地の河辺に着いたらしく、エンジンが切られた。各々車から降りBBQの準備に取りかかる。魔王も外の空気を吸い伸びをした。と、その時…………。













「……………………長次?」


「っ!!」



ふいに後ろから名を呼ばれ、魔王……長次は勢いよく振り返った。



「………………お前は…………。」



「あーーー!?留三郎がもう一人!?」


「阿呆!全然別人だろうが!ってか誰だよお前!!」



異変に気づいた他の男たちも慌てて臨戦体制をとる。こちらに近づく気配すら感じさせないとは、ただ者ではないない。



「あははっ、そんなに警戒すんなって!敵じゃねーから。」


両手を挙げてニッコリ笑う男に、魔王はため息をついた。



「……………………相変わらずだな、与四郎。」



与四郎……と呼ばれた男は嬉しそうに笑い長次の頭を撫でた。


「おめーもな!何だか賑かなのが来たなーと思ったら、まさか長次だったなんてな!」



「………………すまない、気を悪くしただろうか……。」



「気にすんな。ここら一帯は俺の縄張りだ。………………ただ、招かねざる客までいるみてーだがな?」




与四郎は長次の後ろ、小平太ら忍タマンがいる所を睨み付けた。



「…………っ!貴様、人間じゃねえな?俺らと戦ろうってのか!?」



それぞれの武器を構える忍タマンに、与四郎は不適に笑った。













いや、正確に言えば、忍タマンの背後にいる"何か"にだが。








「隠れてねーで出てこいよっ!!」



ビュオオオッと一陣の風が舞い、それが真空の刃となり忍タマンの後ろの地面や木々を抉った。






「…………………………おやおや、いきなりご挨拶だね。鴉風情が…………。」




空間を裂くようにして現れたのは、タソガレドキ領のザットとその配下たち。雷蔵たちは慌てて魔王の側に行こうとするが、ザットから放たれる邪気に圧倒され動けなかった。




「…………っ、お前たち、なぜ……!?」



驚く魔王に、ザットはため息をついてみせる。


「ずっとつけられていたのにも気づかなかったのかい?君もそこらの人間みたいに平和ボケしちゃったのかな……?」


ニコリと独眼を細めるザットだったが、次の瞬間無数の刃が彼女に向けて放たれた。



「っ!!危ない、魔王ーーーーーっ!!」





誰一人動けない中で、最悪の事態が頭を過る。しかし、舞い上がる竜巻のような風がそれを遮った。





「言ったはずだべ?ここは、俺の領域。貴様ら異形のモンに好き勝手させねぇ!!」


















舞い上がる風の中から現れたのは魔王を庇うようにして立つ鴉天狗。手に持つ錫杖がシャンッと鳴り、辺りの邪気が浄化されていく。


「与四郎、これは………………?」



突風の中で手渡された縄。端に刃がついているところを見れば、一種の武器なのだろう。


「…………とある御方から、長次に渡してくれと預かった。お前なら使いこなせるようになると仰っていたぞ。」




長次はそれを握り締めた。何故だろう、こんなに懐かしく思うのは……。


「だからといってすぐには使えねーわな。…………しっかり掴まってろよ長次!」



長次を抱き抱えたまま天空へと翔び、与四郎が祝詞を唱える。すると、舞い上がる風が刃になり地を凪ぎ払い、吹き荒れる突風が矢になり敵へと降り注ぐ。




「…………!皆が…………!」


「心配すんなって!これくらい、あいつ等なら防げるはずだぜ?自分の仲間を信じてやれ。」


笑う与四郎の言葉に、魔王は固唾を飲んで見守る。風が止み視界が開けると、そこには、タソガレドキの魔族たちの姿はなく、吹き荒れた地面とBBQセットを守るように結界を張る忍タマン、そして四天王がいた。




「いきなり何すんだ!攻撃するならするで言えよ!」



「良かったぁ。BBQセット流されなくて……。」




地上に降りるなり与四郎はブーイングの嵐にあい、魔王は四天王に泣きつかれた。



「な?大丈夫だったろ?」


「………………与四郎……。」





「あーあーあーっと!さくさくっとBBQに移りましょー!魔王様、好きなの串に刺すらしいッスよ。ほら、あんたも!帰る気ないなら手伝って!野菜くらいなら分けてあげますよ。」



何だか良い雰囲気になりそうなのをいち早く察知したきり丸が二人を引き剥がす。何だかんだ言って与四郎もBBQにまぜてくれるらしい。



気を取り直して行われたBBQは、それはそれは盛り上がったという……。
















そして、一方こちらはひとつ隣の山中…………




山頂の千年杉のてっぺんに立ちザットはBBQの様子を眺めていた。距離的にはあり得ないくらい離れているのだが。




「………………隠れてないで出てきたらどうだい大川殿。」



「ふぉっふぉっふぉっ!バレてしもうたか、儂も腕が落ちたかの?」



フッと気配も無くザットの隣の枝に老人が現れた。近くの木々にいた配下たちが武器を構えるのを制し、ザットは老人……大川コーポレーション会長・大川平次渦正に話し掛ける。



「ふふっ、ご謙遜…………。あの子たちは誰一人気づいてなかったようだけどね。……………………あの子にアレを渡したのは君だろう?余計なことをしてくれたね。」


あんな鴉ごとき、打ち落とそうと思えば出来た。しかし、魔王があの武器……縄標を手にしたとたん、二人をくるむように結界が出来ていた。縄標に込められた"何か"と魔王の魔力が合わさり、とてつもない強力な壁となって。



「はて、何のことじゃろうな?儂はただ、返すべき物を、返すべき人へ渡しただけじゃ。…………しかし、ロリコンのツンデレは手に負えんわい。お前さん、本当はあの子とBBQしたいんじゃろ。」



「………………………………。」



(む?図星か…………?)



急に黙りこくったザットに大川会長は軽く目を見張った。



「ふっ……勘違いしないでくれるかな。君のふざけた発言に言葉が出なかっただけだから。……………………私はもう失礼するよ。君を引き裂いてやりたいところだけど、後ろの二人に邪魔されそうだしね。」




ザットと大川会長の死角になる枝に潜んでいた秘書二人が息をのむ気配がする。ザットは目を閉じ、闇に包まれて姿を消した。



完全にザットの気配が消えたのを確認し、大川会長はBBQを楽しんでいる魔王に目をやる。その肩に掛けられた縄標を感慨深そうに見つめ、かつて遥か昔、同じようにソレを携えた少女の姿が重なる。




「大事にするんじゃぞ…………。そなたの母より預かった形見、………………いずれ役に立つ時がくる。」






あの時、二人を包んだ結界は魔王の魔力と、一度しか抱いてあげられなかった我が娘に向けた母の愛。





今は、まだ何も知らなくてよい。かつて母が生きたこの地で楽しく過ごしてくれたなら…………。




「さて、シナ君、三郎。儂らも帰るかのう。」



今一度魔王の姿を目に焼き付け、大川会長は街へと帰っていくのだった。














ーENDー



無駄に長くて意味わかんなくなりましたね(^_^;)



 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ