NOVEL

□A
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無事に入学式が終わり、初のHR。運良く小平太は長子と同じクラスになれた。『1―B』と書かれた教室に入ると、名前順で席が決まっていた。中在家と七松なので、長子の後が小平太の席だ。



「長子、席が近くて良かったな!」



コクリと頷く長子に小平太が嬉しそうに笑う。しかし、長子は周りの視線が気になり落ち着かなかった。小平太は良くも悪くもかなり目立つ。今だって周りの女子たちから熱い視線を送られているのだ。そんな小平太がしきりに話しかけている自分にも否応なしに視線が集まる。何だかいたたまれない気分だ。












HRが終わると、待ってましたとばかりに女子たちが小平太に群がった。



「七松くんって、高等部からこの学校なんだよねー?中学はどこだったの?」




この大川学園は、小中高一環校で近くには同じ系列の幼稚園と大学もある。つまり、小平太と長子みたいに高等部から入るのは稀で、ほとんどの生徒は小学校もしくは幼稚園の頃からこの学園に通っているのだ。



小平太の周りに立ち込める熱気に当てられ、長子はフラりと廊下に避難した。一刻も早く外の空気を吸いたい。



(そういえば、校舎裏に大きな庭園があったな……。)

色とりどりの花が咲き乱れる綺麗な庭園だった。遠目にちらりとしか見ていなかったから、良い機会だ今から行ってみよう。……そう思えば自然と脚も早くなる。











「……………………凄い。こんなに広い花壇、どうやって手入れしているんだろう…………。」


興味深げに覗いてみると、花壇のあちこちに細いパイプが走っているのを見つけた。どうやらスプリンクラーを活用して水やりをしているらしい。



しばらくぼんやりとそれを眺めていたら、庭園の入り口から一人の男子生徒が歩いて来るのに気づいた。胸に花を付けているから、新入生なのだろう。長子はその男子生徒に見覚えがあったが、それが何処でだったかは思い出せない。同じクラスだったろうか……と、教室で見た顔を思い浮かべていた、その時。






ブシャアアアアーーーッ



「っ!?わぁああああーーー!!?」




スプリンクラーが誤作動を起こしたのだろうか、男子生徒目掛けて大量の水が噴き出てきた。走って抜けようとした男子生徒だったが、ぬかるんだ地面に足を取られ派手にすっころんでいる。あれでは制服もクリーニング行きだろう。何だか可哀想になってきて、長子は急いで周りを見渡した。まずは水を止めなければと、元栓を探しているのだ。


「………………あ、あった!」



大きめの蛇口をしっかり閉めれば、あれだけ勢いづいていた水がピタリと止む。長子は靴が汚れるのも気にせず、蹲っている男子生徒に近づいた。



「…………あの、大丈夫?」



ハンカチを差し出しながらもそもそと呟く長子の声が聞き取れなかったのか、首を傾げて男子生徒が顔を上げる。長子の顔を見た瞬間、一瞬だけだが目を見開いたのを、長子は見逃さなかった。

髪の毛で多少被せているとはいえ、この頬の傷は嫌でも目立ってしまう。まるで腫れ物に触るような他人の反応に、今はもう慣れてしまったけれど。



諦めにも似た吐息をつく長子だったが、いきなり立ち上がり自分の手を握ってきた男に度肝を抜かれた。



「あ、の………………?」



「まさか、こんな所で会うなんて…………。この傷、やっぱり残っちゃったんだね……?」



そっと長子の傷を労るように男の掌が頬を撫でる。


「な、に…………?あの、誰……ですか?」


明らかに自分を知っている風な男だが、クラスにはいなかった顔だ。しかし、この自分を心配そうに覗き込むこの表情は、確かにどこかで見たことがある。








「え…………っ、僕のこと、覚えてない……?」



「あの…………………………はい。ごめんなさい…………。」



「そっか………………。」



がっかりしたように男が項垂れる。しかし、オロオロする長子に気づき、安心させるようにふわりと微笑んだ。



「気にしないで。会ったのはだいぶ前だし………………。じゃあ、改めまして……僕は善法寺伊作。高等部1年C組なんだ。……今度は覚えてね、中在家長子さん。」



「………………ぜんぽうじ…………。」



その珍しい名字でピンときた。そうだ、あの時の……。



「…………善法寺総合病院で会った……?」



「っ!そうそう!思い出してくれたんだね!」




あの時…………長子が病院に運ばれた時のことだ。学校最寄りの総合病院に搬送されたのだが、その病院の名が『善法寺総合病院』で……。


小平太が出ていった後、一人泣いていた長子に気づき話しかけてくれたのが彼だった。今みたいに心配そうな顔をしながら。



「検査で一日だけの入院だったんだね。次の日に行ったらもういなくなってたから……。父さんに聞いても患者の個人情報だからって教えてくれなかったんだ。」



もう一度、会いたいって思ってた。


言いながら手を握られ、長子はたじろぐ。じっと見つめられて、すごく恥ずかしい。


「会いたいって……、どうして、私なんかと…………。」




「どうしてって…………。それは、僕が君の事をs「長子ーーーっ!!」



頬を真っ赤にしながら伝えようとしていた伊作だったが、長子を呼ぶ大声に掻き消されて、肝心な部分が長子まで届かなかった。



「…………小平太…………。」


「長子っ、急にいなくなるなよ、心配しただろー。………………で、誰なのコイツ。」



未だに長子の手を握っている伊作に、小平太がガンを飛ばす。



「……僕は善法寺伊作。………………君は中在家さんの知り合いなのかな……?」



「長子は私の幼馴染みだ。」



「幼馴染み……ね。僕はただの知り合いってとこかな。…………今はね。」



バチバチッと小平太と伊作の間に火花が散る。二人の険悪な雰囲気を感じ取った長子はただ困惑するしかない。



「…………じゃあ、僕はそろそろ失礼するよ。着替えないといけないしね。…………またね、長子さん。」


「っ!?気安く長子の名を呼ぶな!」


ギャンギャン吠える小平太を完全スルーし、伊作は長子に微笑み去っていった。




「長子っ!アイツに何かされなかったか!?」


「うん…………大丈夫…………。」



長子は撫でられた頬に手をあて、見えなくなるまで伊作の後ろ姿を見送った。






















その出来事の一部始終を見ていた人物がここに一人。





「……へー、あの伊作が自分から女に寄ってくなんて珍しーな。」


「ねぇ、どーしたの?」


「ううん、何でもねーよ?」


腕に絡み付いてくるクラスの女子に笑いかけ、男は長子に目をやった。



「貞子みてーな髪してっけど、スタイル良いよなぁ……。」


「もーっ、食満くん!さっきから何ブツブツ言ってるの?」


ムニュッと押し付けられる胸の感触に男……食満留三郎は冷やかに笑ってみせた。顔が可愛かったから声掛けてみたけど、案外期待はずれだ。



「ごめん、やっぱ付き合えねーわ。俺、シリコンで誤魔化してる奴って無理だから。」


青ざめる女の子を置き去りに、留三郎の頭はすでに長子への興味でいっぱいだった。



「伊作には悪ぃけど、俺が落とさせてもらうぜー。」









留三郎はまだ知らない。まさか遊び人で有名な自分が、本気の恋に落ちようとは。







〜つづく〜


お待たせしました。第2話です。

伊作登場ですね。腹黒伊作になってしまった(^q^)


簡単な設定では、伊作は病院の跡取り息子です。女にモテるけど、騒がしい女子が苦手で自分から言い寄ることは絶対ない。父に書類を渡しに来たとき、たまたま通りかかった病室にいた長子に一目惚れした。……という感じで。



次回は留三郎編です!お楽しみに(笑)



 
 

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