NOVEL
□ウルトラマニアック
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「あーあ、どこかにロリで巨乳な可愛こちゃん落ちてねーかな。」
「……………………。」
忍タマンブルーこと食満留三郎の突然の呟きに、隣を歩いていた伊作が冷めた視線を寄越す。人通りが少ないとはいえ、ここは商店街。公共の場なのだ。
「留三郎さ、恥ずかしいからそんなこと大声で言わないでくれる?」
本人はその気はなくとも、留三郎の声はよく通る。幸いにも周りに人が通っていなかったから事なきをえたけれど、正義のヒーローにあるまじき発言だ。
「お前にはわかんねーよな。ロリで巨乳で清楚で可憐な美少女に詰まっている夢と希望が。」
「解りたくもないよ、そんなマニアックな理想なんて。しかも何か増えてるじゃない。」
いろいろと付け足された留三郎の理想像。伊作はただひたすらに引くしかない。
「そんな偏った理想ばかり追いかけてたら………………あ。」
前を見つめたまま立ち止まる伊作に留三郎は不思議に思いながらも伊作の視線を追った。そこにいたのは…………
「……っ、あれは……魔王!!?」
クレープを片手にこちらに歩いてくる魔王だった。華奢で巨乳で幼い顔立ちが遠目でもわかる。
(……………………あれ?もしかして魔王って、留三郎の理想にどんぴしゃなんじゃ…………。)
見た目なら、留三郎の理想をそのまま具現化したようなものだ。
「ねぇ、とめさぶr」
「ここで会ったが百年目ぇ!魔王、勝負だっ!!」
「え、え!?ちょ、留三郎!!?」
まんま理想の魔王に、留三郎が殴りかかって行く。留三郎は基本、女の子には優しい。それなのに敵対心を剥き出しにするとは、よほど魔王に負けたのが悔しいらしい。まぁ、自分達をこてんぱんにしたのは男の方の魔王だが。
「っ、ま、待て……!いきなり何を…………っ!」
問答無用で拳を繰り出される魔王だったが、難なく交わしていく。それが余計に留三郎を焚き付けるのに…………。
しかし、それも長くは続かなかった。
「いい加減に…………っ、あ!私のクレープが……!!」
留三郎の回し蹴りをかわした魔王だったが、僅かに手に当たってしまいクレープが吹っ飛んでしまった。
グシャッ
「……………………っ!」
クレープに向かい手を伸ばした魔王だったが僅か届かず、無残にも一口しか食べてないクレープは地面に落下した。
「よそ見してる場合じゃねーぞ!」
打ちひしがれる魔王に向かって留三郎の拳が繰り出された。が、
ズダンッ
「カハッ!?」
留三郎と伊作は目を見開いた。一瞬すぎて何が起きたかわからない。気づいたら留三郎の身体が地面に叩きつけられていたのだ。
「な、に…………っぐぁ!!」
起き上がろうとした留三郎の鳩尾あたりに高めのヒールが食い込んだ。魔王が踏みつけたのだ。
「……………………人間風情が、身の程を知れ。」
見上げれば、魔王の絶対零度の視線とかち合った。さらにグリッと力を加えられ、留三郎の息が詰まる。
「いや、貴様など人にも劣る家畜だな。家畜は家畜らしく地を這うが良い。」
留三郎の耳元に、魔王が低く呟く。何の反応も返さない留三郎を鼻で笑い、魔王は人混みの中へと消えていった。
「留三郎、大丈夫!?」
なかなか起き上がろうとしない留三郎に伊作が駆け寄る。とりあえず立ち上がらせようと近づいた瞬間、いきなり留三郎がガバッと起き上がった。
「うわっ!?どーしたの留三郎?」
「………………………………れた。」
「え、何?」
ポツリと呟かれた言葉が聞こえず、伊作は耳を近づけた。
「…………惚れた!」
「え。」
「見たか伊作!?あのヒールの食い込む角度と力加減!最高だ!あんな女、今まで見たこと無ぇ!」
あんなに魔王に敵対心を持っていたのに、今はキラキラと瞳を輝かせている。
(留三郎、Mだったんだ……。)
仲間の意外な性癖を目の当たりにして、やるせない気持ちでいっぱいになる。
「灯台もと暗しってやつだよなー!まさか、こんな近くに直球ど真ん中な女がいたなんて!」
「……………………………………、留三郎ってさ、アレだよね。もうさ、ただのマニアック越えたよね。」
「はぁ?意味わかんねぇんだけど。」
「もういいよ。ほら、早く帰ろう。」
深い深いため息をつき、留三郎を引きずって帰る伊作だった……。
ーENDー
留三郎の中では、タイプの女<敵<ドSとランク付けされているに違いない(^q^)