NOVEL
□苛立ち
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ーーー魔界・タソガレドキ領
「ザット!何時になったらナカザイケ領の魔王を捕らえて来るのだ!」
玉座の間に怒鳴り声が響いた。声の主はタソガレドキ領を治める魔王・ジンベー。極悪非道の侵略好き、魔界で知らないものはいないほど、その名は知れ渡っていた。
そんな怒れる魔王の前に跪くのは、彼の家来のザット。魔界で右に出るものはいないとさえ言われるほど、有能な魔族だ。
そんな有能な部下でさえ捕らえて来ることが出来ない魔王・チョージとは、いったいどれ程の力量を持っているというのか。ジンベーは焦った。なんとしてでも、他の奴らに先を越されるわけにはいかない。
「……申し訳ありません、意外と厄介な者たちが周りを彷徨いておりまして。」
安穏と報告するザットにジンベーがキレる。
「そんな言い訳など聞きとうないわ!この役立たずどもめ、ナカザイケ領の魔王を手に入れるまで戻って来るな!」
「ジ、ジンベー様、しかし……!」
異議を申し立てようとするヤマモトをザットは片手で制する。包帯から覗く独眼を妖しく光らせながら、恭しく頭を垂れた。
「ザット様、宜しいのですか?ジンベー様の癇癪にわざわざ付き合わなくとも…………。」
玉座の間を出てすぐにヤマモトが耳打ちする。最も頼れる配下を自ら遠ざけるなど、ジンベーの命令が不服のようだ。しかし、当の本人は気にするどころか面白そうに笑んでいる。
「かまわんさ。よく考えてもみろ、これでつまらん報告のためだけに魔界と人間界を行き来する必要はなくなった。」
そう、当分は戻るつもりはない……。
(あの子の真の価値も力量も解らぬとは…………。我が主ながら、愚かだねぇ……。)
ジンベーを蔑むザットの脳裏に、人間界で見かけた魔王チョージが浮かぶ。
平和ボケした輩に無防備に触れさす魔王。何故だかその姿を思い出す度に言い様のない不快感が込み上げる。
魔王らしくないあの少年(昼は少女だが……)にまとわりつく妖しどもも目障りだ。
「…………………………。なんだろうねぇ、これは…………。」
タソガレドキ領のザットは、今日もまた原因不明の苛立ちを抱えながら魔王チョージを監視している……。
ーENDー
魔族だから感情など必要ないと思っていたザットに、嫉妬心が芽生えました。しかも無自覚(^q^)
これから長次のストー●ーしつつ、だんだん惚れ込んでいくに違いない!(`・ω・´)/