NOVEL

□アイスクリーム
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これは、忍タマンが5人揃い魔王も初登場を果たしたあとの話である。

















「ごめんね文次郎、買い物に付き合わせちゃって……。」


隣を歩く文次郎に、伊作は申し訳なさそうに謝った。晴れて忍タマンの一員となった伊作は、この夏、小平太らが住んでいる寮に移ることになったのだ。



「気にすんな。今日は用事もなくて暇だったし、これでもリーダーなんでな。」


気にする風でもなく笑う文次郎に、伊作は感謝した。一緒に居るだけで不運に巻き込まれるのに、嫌な顔一つしない。むしろ励ましてさえくれる仲間に、自分はどう感謝して良いか……。



「ありがとう、お陰で要るものは全て買い揃えられたよ。何かお礼しなきゃね!」


「あー?いいって、そんなの。」


「遠慮しないでよ。僕の気がすまないし。そうだ、暑いからアイス奢るよ!ちょうどあそこにサー●ィワンアイスクリームが…………………………あ。」



伊作が指差す方を見て、二人とも立ち止まってしまった。



「…………………………………………魔王?」




サー●ィワンの窓ガラスに張り付くようにして中を窺っている魔王が、そこにいた。夏だというのに長袖のブラウスを着ていて、そのゴスロリちっくな格好と右目を隠す眼帯で嫌でも目立っている。





「………………なに、してるの?」



「っ!?」


意を決して話しかけた伊作に、魔王がビクッと反応する。



「……っ!忍タマンレッドと、グリーンか…………。」



「お前一人か?あの狐野郎とかはどうした。」



いつも魔王の傍に張り付いている過保護な狐とコウモリの姿がない。



「…………きり丸たちは、この暑さで動けない…………。私も、今は戦う気はないからな…………。」


敵意が無いことを示しながら、魔王が
立ち去ろうとする。それを慌てて伊作が引き留めた。



「まっ、待って!魔王、もしかしてアイスクリームが食べたかったんじゃないの?」


「!!」


図星だったらしく、魔王がピタリと動きを止めた。パワーアップしたはずの自分達5人をいともたやすく凪ぎ払った魔王を知っているだけに、このしおらしさは文次郎に戸惑いを与えた。



「魔王がアイスとか…………マジか。」


「文次郎黙って。………………あのさ、魔王。僕たちもここでアイス買うんだけど、一緒に入る?」


「っ、い、良いのか?」


パッと顔を上げた魔王の頬がうっすらと色づいている。その愛らしさにうっかりトキメキそうになり、文次郎は電信柱に頭を打ち付けて己を静めた。








「いらっしゃいませ〜!」


女性店員の元気な声が響く。さまざまなアイスが並べられたディスプレイを見ながら、真剣に選ぶ魔王に伊作は思わず微笑んだ。


「好きなの言いなよ。僕が奢ってあげる。」


しゃがんで自分と目線を合わせる伊作に、魔王は戸惑いをみせた。


「知らない人に、物を貰ってはいけないと、雷蔵が…………。」


「うん。でも、僕たち知らない者同士じゃないだろう?」



伊作にニコリと微笑み顔をのぞかれた魔王は、暫く考えたあとお言葉に甘えることにした。


「では、ありがたく…………。私は、あまり詳しくはないから、お前たちが選んでくれないか?」


魔王の言葉に、伊作と文次郎は揃って声を上げた。










「ベリーベリーストロベリー!」
「大納言あずき。」


「「…………………………。」」


「ちょっと文次郎!こんな可愛い子に何てチョイスするのさ!」


「バカタレィ!あずきこそ日本の味だろうが!!」



意見が別れギャーギャー言い合う二人に魔王がオロオロしている。その時クスッと吹き出す声があがり、思わず3人の目はそちらに向いた。



「し、失礼しました!あの、今キャンペーン中でレギュラーサイズ以上をご注文の方には、もう一段プレゼントしておりますので、よろしければ……。」


見かねた店員が声をかけてくれた。回りのテーブル席からもクスクスと笑い声が聞こえる。端から見たら、だいの大人二人が少女を挟んでケンカしてるなんて、なかなかシュールだと思う。ゴホンッと恥を振り払うようにして伊作と文次郎が咳払いをする。



「魔王、やっぱり自分の好きなのを選んでいいよ。僕らの好みを押し付けるのも良くないしね。ね、文次郎?」


「あー、まあ、そうだな。」



「そうか…………?なら…………。」



食べたいものが決まったのか、魔王が店員を見上げる。


「お決まりですか?レギュラーサイズなら、お二つ選んでいただけますよ。」





「では、…………これと、これを。」


「はい!かしこまりました!!」









満面の笑みで店員が渡してくれたのは、ベリーベリーストロベリーと大納言あずきの2段重ねのアイスだった。









「今日は、助かった。ありがとう……。」


「いいえ、どういたしまして!」


「魔王に礼を言われると何か変な感じだな…………。」




それでは、失礼する……。と去っていく魔王を見送りながら、知らず知らずの内に口許に笑みが浮かぶレッドとグリーン。



「まったく、悪役らしくねぇ魔王様だぜ。」














この時の彼らはまだ気づかなかった。


物陰から魔王を窺う、新たなる敵の存在に…………。










ーENDー



小話集第一段でした!


まだ文次郎は自分の恋心を自覚していない。





 

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