NOVEL

□なな
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「うーん…………。ホント何だろうこの飴…………。」



飴玉の入った瓶を眺めながら、伊作が首をひねる。



「………………やっぱり、店のおじさんに聞きに行ってみようかな…………。」





この飴玉を譲ってもらったと言っていたが、もしかしたら、何か知っているのかもしれない。




「…………よし。考えてても仕方ないし。行動あるのみ、だよね。」



私服に着替え、伊作は部屋を出た。しかしそこで、小平太と出くわした。



「あれ、いさっくんお出かけ?」



「うん、ちょっとね…………。小平太こそ、長次と遊んでたんじゃないの?」



さっきまでお馬さんをやってあげてたはずだけど……と、伊作が聞くと




「ああ。長次、遊び疲れたみたいで寝ちゃったんだ。今部屋で寝かせてる。」




たしかに、小平太に全力で遊んでもらえば体力を根こそぎ奪われるからね。と、伊作が苦笑する。



「そういえば、小平太。」


ふと思い出して、小平太の顔を見た。




「さっき、気になることがあるって言ってたけど、何だったの?」



伊作に問われ、すっかり忘れてしまっていたらしい小平太がハッと目を見開いた。




「そうだった!あのさ、あの飴のことなんだけど。」



「うん?」



「3人で、舐めてたときのこと、覚えてるか?」




「ええ?…………うーん、ハッキリとは…………。」




必死で思い出そうとする伊作に、小平太は別の質問を投げ掛ける。



「じゃあ、自分が何色の飴を舐めたか覚えてる?」




「ん?うん、青だったよ。」



「うん。私も、青だった。」




じゃあ、長次が舐めてたのは?



続けられた質問に伊作は目を見開いた。あの時、確か長次は「舌が青くなりそうだな…………。」と言って、青い飴を嫌がった。だから、必然的に赤い方になったわけで…………。




「…………長次が3歳になったとき舐めてたのも、赤色だったんだ。」






長次が縮んだのは、赤い飴玉のせい?


ドクンドクンと、変な緊張で心臓がうるさい。




「いさっくん、もしかしたら、青い飴は解毒剤の役目をしてるんじゃないか?だから、私たちは何も起こらなかった。」





「それじゃあ、つまり…………。」





「「青い飴を舐めれば、長次は元に戻る。」」





小平太と伊作の声が重なる。




「うん、その可能性は高いよ!待ってて、今持ってくるから!!」



再び自室の戸に手を掛けた伊作に、小平太が頷く。しかしその時、小平太の嗅覚と勘が危険信号を発した。




「…………火薬の匂い…………?はっ!!危ない、伊作っ!!!」




「え、こへ…………」






ドォオオオンッ!!









小平太が伊作に体当たりするのと、爆発音が響いたのは、ほぼ同時だった。






「くっ!いさっくん、大丈夫か!?」




「ケホッ、うん、僕は大丈夫だけど、小平太は!?」




「私も、何ともない。…………っ、誰だ!!」






煙立ち込める中に、1つの影が揺らめいた。




「ほぉ。あの爆発で逃げ切るとはさすがだな。」




黒い忍び装束に身を包んだ男が、平然と荒れた室内に立っていた。その手には、飴玉の入ったビンが握られている。



「その飴玉返せっ!!」



小平太が苦無を構え、忍者に飛びかかった。しかし、いとも簡単にかわされてしまう。



「小平太ぁ!伏せろぉおお!!」



自分を呼ぶ声に、反射的にしゃがんだ。その瞬間、曲者めがけ手裏剣が放たれる。



「これは何事だ?」




手裏剣を投げる文次郎と留三郎にあとは任せ、仙蔵は伊作の側にしゃがみ込んだ。




「わ、分からない。でも、あの飴玉を取り返さないと、長次を元に戻す手掛かりが無くなる!!」




伊作の言葉に、仙蔵は曲者に目を向けた。そして、懐に忍ばせておいた焙烙火矢を手に取る。文次郎たちの攻撃を全てかわしている曲者に、隙などない。





(くそ……っ!今焙烙火矢を放てば、最悪あの飴玉を吹き飛ばしてしまう!どうすれば…………っ。)





「その飴、返せぇえええーーーっ!!」



叫びながら殴りかかる小平太をかわし、チラリと外に目を向けると曲者はニヤリと笑い小平太に耳打ちした。




「こんなところで油を売っていて良いのか?もっと、心配すべきことがあるだろうに。」




「何を…………っ!」



言いかけた小平太だったが、ハッと外を振り返る。



「…………まさかっ!」






一目散に駆け出す小平太を呆然と見送った伊作だったが、最悪の事態が頭を過る。







「しまった…………っ、長次!!」






伊作も、小平太の後を追うように駆け出した。



「文次郎、留三郎!そやつを逃がすなよ!」




それぞれの得意武器を構える二人に振り向き様叫び、仙蔵も伊作に続く。








行き着いた先は保健室。ここには、長次が眠っている、はずだった。



先についた小平太が布団の前に佇んでいる。その隣に、新野先生が倒れていた。




「新野先生!?いったい何が……っ。小平太、長次は!?」




小平太を押し退け、布団を見た伊作は愕然とした。




「長次が、いなく、なった……?」




寝ているはずの長次が、そこにはいなかった。



呆然とする3人だったが、新野先生の唸る声で我に返った。



「……ぅ。善法寺くん……、な、中在家くんは…………?」




「先生!長次は…………っ、長次はどうしたんですか!どこに、いるんですか!?」



一気に捲し立てる伊作に、しかし新野先生は悲しそうな顔をした。



「すまない、私としたことが……っ、中在家くんを拐われてしまった……っ!」




「そんな…………っ!」




しかし頭が真っ白になる3人に、更なる追い討ちがかかる。





「…………すまねぇ、曲者を逃した…………。」



悔しそうな顔をする文次郎と留三郎が開いた戸の前に佇む。







「そんな…………、それじゃあ…………っ!」





長次の行方の手掛かりが、無くなった…………?





信じ固い現実が、彼らを打ちのめす。


重い沈黙だけが、部屋に満ちていた…………。









〜つづく〜




一気に急展開です。


この先、どうなるかは自分にも分からない(^q^)





 
 

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