NOVEL
□ご
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「………………、追ってくる気配はない、か…………。」
タソガレドキ城から無事に脱出した利吉は、長次を抱き抱えて森の中を走っていた。しかし、追っ手の気配がないことに気づき、少し速度を落とす。
「長次、大丈夫か?」
腕の中の長次に目をやると、利吉の上着をギュッと握り締め、フルフルと震えている。全速力で走っていたから怖がらせてしまったかもしれない。
しかし、ぱっと顔を上げた長次は、利吉の予想外の言葉を発した。
「………………にーちゃ、おしっこ!」
「……………………………………………………え?」
今、おしっこって言った ?あの長次が?
普段のつれない長次を知っているだけに、さっきの発言は利吉にとって衝撃的だった。
「にーちゃ?」
きょとんと首をかしげて見上げてくる長次に利吉はハートを打ち抜かれた。いや、もとから惚れていたけれども!でも、こんなに無防備な長次は貴重すぎる…………っ!
「ああ、すまないな。じゃあ、あそこで…………。」
長次を降ろしてやり、着物をたくしあげてやる。何だかイケない物を見ている気がして、利吉は理性と欲望の間で板挟みになったが、何とか堪えた。
用を足した長次はスッキリとした様子で手を洗っている。小さな池は、長次でも立てるくらい浅かったが、落ちたりしないかハラハラしながら利吉は見守った。
すぐにでも学園に連れて帰るべきなのだろうが、長次があまりにも楽しそうにしているのでもうしばらくはここに居ることにした。
それに、またしばらくは会えなくなるのだから少しくらい独り占めしてもバチは当たらないだろう。
「…………ん?どうした長次?」
水面を眺めていた長次がトテトテと利吉の元へ戻ってきた。岩に腰掛けていた利吉は長次を抱き上げ、自分の膝に座らせた。
「にーちゃ、あしょぼー!」
池を指差す長次は、たぶん水の中に入りたくて利吉を呼びに来たのだろう。
「ああ。じゃあ、少しだけ入ってみるか。」
長次を抱き上げたまま池に向かい足を浸けた。意外に冷たい水に利吉は身体を震わせる。
長次をこんな冷たい水に浸けるのは気が引けるが、当の本人はすごく入りたそうにしている。利吉はゆっくりと長次を降ろした。
ちゃぷん…………
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、ちめた!」
予想したとおりやっぱり長次には冷たすぎたみたいだ。ぎゅうーっと目を閉じてプルプルと震えている。
「長次、出ようか?」
「あいっ!」
長次も、あまりの冷たさにギブアップしたのだろう。差しのべられた利吉の手に必死にしがみついた。
「………………そろそろ帰ろうか長次。」
池から上がり、しばらく花を摘んでいた長次だったが、次第に眠たくなったのだろう。コクリコクリと舟をこぎ始めた。
利吉は長次を抱き上げ、背中をトン、トン、トン、と撫でた。その心地よいリズムに長次はいつの間にか寝息をたてている。
「長次、可愛い。」
寝顔に見とれていた利吉はぽつりと呟き、ゆっくりと歩き始めた。
長次を起こさないように、そして長次といる時間が少しでも長くなるように。
学園に着くと、長次を抱き抱えた自分に次々とみんなが感謝と労いの言葉をかけていく。どうやら、タソガレドキの組頭に連れ去られた長次を探し回っていたらしい。
「よくやった、利吉。世話を掛けたな。」
父の言葉に利吉は首を振る。
「いえ。長次を見つけたのはたまたまですし…………。ここまでの道程も楽しめましたから。」
保健室の布団でスヤスヤ眠る長次を見つめ、利吉は笑った。
「長次との間に子供が出来たら、こんな感じなんでしょうね。父上も、こんな可愛い孫が欲しいでしょう?」
「ああ。………………ん?………………………………はぁ?」
伝蔵は長次を愛しそうに眺めている利吉に目を向けた。
「……………………利吉。長次はおとk「それでは父上、私はもう行きます。たまには家に帰って下さいよ。」あっ、こら、利吉!!」
伝蔵の話を遮り、利吉は去って行った。
「あいつ…………。大丈夫か……?」
伝蔵は我が子の頭を心配した。
男同士で子は成せんと言おうとした伝蔵だったが、自分の息子の想い人が男ということにああまり気にはしていないらしい。いや、むしろ長次くらい料理上手で気が利く子なら妻も気に入るだろう。
「まあ、いいか。」
一人頷き、伝蔵は皆に囲まれながら眠る長次の元へと歩み寄って行った。
〜END〜
長次に振り回される利吉を描きたかったんですが、途中で脱線しました(・・;)
まだまだ続きます(*´∇`*)