NOVEL
□よん
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ここはタソガレドキ城の、とある一室。
「美味しいかー?長次。」
おやつを食べさせている諸泉尊奈門はコクコクと頷く長次の可愛さに悶えた。
「長次、こっちの餡蜜も美味いぞ。ほら、あーん。」
その隣で、餡蜜の入ったお椀を持つ高坂が寒天を匙で掬い、長次の口元に近づけた。
あー、と小さな口をいっぱいに広げて寒天を頬張る長次に高坂も心をわし掴みにされる。
「ぐはっ!!ちょ、長次………っ!!なんて可愛いんだー!」
お椀をひっくり返す勢いで身悶える高坂はしばらく床で転げ回っていた。
「長次、口の周りがベトベトしてるぞ。拭ってやるからこっちを向きなさい。」
濡らした手ぬぐいで、せっせと汚れを落としてやるのは小頭の山本陣内。
長次を取り囲むタソガレドキ忍者は、雑用で留守にしている雑渡の命令で長次の子守をしている。初めこそ変わり果てた長次の姿に驚きはしたものの、あまりの可愛らしさに我先にと世話をやき始めた。もうメロメロなのだ。
「長次、南蛮から取り寄せた珍しいお菓子もあるんだぞ。食うか?」
「先輩………、その菓子どこで手に入れたんですか?」
「ん?これは組頭から預かったんだが………。」
「え?殿の所からくすねて来たけど?」
「「「組頭っ!!」」」
悪びれる様子もなく現れた雑渡に3人は驚いた。
長次のこととなると、有り得ない行動を起こすこともある雑渡だが、まさか自分の主の物を盗むとは…………。
「このお菓子だってあのブサ……殿に食べられるより、可愛い長次くんに食べられた方が幸せだろう?」
不細工って言った………っ!!
タソガレドキ忍者3名は同時に心の中でツッコんだ。
そんな部下たちを余所に、雑渡はふと目を細め、天井を見遣った。
「ねぇ。君もそう思うだろう?…………山田利吉くん?」
「「「!!!!?」」」
雑渡の言葉に部下3名は瞬時に身構えた。
しばらくすると、天井から音もなく人が飛び降りてきた。
「……………私の事をご存知とは………、恐悦至極。」
敵に見つかったというのに、余裕の笑みを崩さない利吉に雑渡は感心した。
しかし…………
「………………ん?………その子は、どこかで………。」
ふと、長次に目を向けた利吉が驚愕に顔を染めた。
「ま、まさか………
長次の隠し子!!?」
利吉の斜め上に行った叫びにタソガレドキ忍軍は脱力した。
まぁ、気持ちは分かるが……。事情を知らなかったら、そうなるよね〜。
「くそっ!!どこの馬の骨だ?私の長次をたぶらかしたのはっ!!?」
「………今のは聞き捨てならないねぇ。長次くんは私の嫁だよ。」
利吉と雑渡の間に火花が散った。
そんな2人にため息をつき、山本がたしなめた。
「大人げないですよ。組頭、長次が二人に挟まれて苦しそうです。」
「しまった!大丈夫?長次くん。」
「…………………………、長次?まさか、
その子は……長次本人なのか?」
利吉が驚愕の声をあげた。そして、恐る恐る話しかけてみる。
「………………、ちょ、長次?」
「あい!!」
名前を呼ばれた長次は、小さな手をいっぱいにひろげ、元気よく返事をした。
「「ぐは!!!!!!」」
あまりの愛らしさに雑渡と利吉は胸を押さえて倒れた。
「可愛い………、可愛すぎるよ長次くん…………っ!!どうしよう、このままだと犯罪に走ってしまうかもしれない………っ!!」
「長次を誘拐してきた時点でもう犯罪ですけどね。」
さらりと山本がツッコミを入れた。
「にーちゃ、だっこ!」
不意に長次が利吉に向かって手を伸ばした。
「長次くん!?だっこなら私がしてあげるのに!!」
「やぁーーーーっ!!」
長次に腕を伸ばす雑渡だったが、本気で嫌がられてショックでフリーズしてしまった。
「長次にしたら組頭は、知らない所に連れてきた嫌なヤツに映るんでしょうね。」
私達はお菓子をくれたいい人だと思われているようですが。と、山本が冷静に状況を分析する。
「そ、そんな………………。」
打ちひしがれる雑渡をよそに、利吉は長次を抱き抱え城から脱出した。
「あっ!!!組頭、長次が連れて行かれました!!」
追いかけようとする尊奈門を雑渡は引き留めた。
「大丈夫。会いたくなったらまた、拐ってくれば良いんだから。」
「「「……………………………………。」」」
こいつ、全然反省してねぇ……。部下3人は、長次の事となると残念な人になる組頭に肩を落とした。
〜end〜
次回、利吉お兄さんと戯れます。たぶん