NOVEL
□だって、約束したもの
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きっかけは、乗馬の練習をしたいと言う先輩に馬を貸した時。
無口で、無表情で、笑顔が不気味な先輩。
きっと自分の中で『苦手』の部類に入る人だった。
「…………で、ここは、こうやって手綱を繰ると良いですよ。」
余りにも下手(まぁ、初めてだから仕方ないんだろうけど)な先輩を見かねて、一緒に馬に乗って指導した。ホントは後ろに乗ってやるのが良いんだけど、それだと前が見えなくなるから、先輩の前に乗って一緒に手綱を握った。
「………そうか。勉強になった。………ありがとう、団蔵。」
ポンポンと頭を撫でられて、後ろを振り向いた。
(なんだ……中在家先輩、普通に笑えるんじゃん。)
ドキン……
あ、あれ?何なんだ、このドキドキは………。それより、先輩ってこんなに可愛かったっけ?
突然の不整脈に驚いて、油断してしまった。
ズルッ
「っやば!!」
「団蔵!?あぶな………っ、」
ドシャアッ
派手な音を立てて馬から落ちてしまった。衝撃に耐えるようにギュッと目をつむったが、なかなか来ない。それどころか……
暖かい?
「っく……。大丈夫か?団蔵………。」
「な、中在家先輩……っ!?」
団蔵を守るように抱き込んだ長次を見て、状況を把握した。
とっさに庇ってくれたんだ……
「ん……、っ痛……!」
起き上がろうとする長次だったが、身体をしたたかに打ち付けてしまい、できなかった。
「先輩、俺誰か呼んでき「長次!!!」
「潮江先輩……!!」
文次郎は長次に走り寄ると、ヒョイッと軽々抱き上げた。
「も、文次郎………、自分で歩ける………。」
「バカタレ。打ち付けて起き上がる事もできんくせに。」
観念した長次は、おとなしく文次郎にしがみついた。ふと、今にも泣き出しそうな団蔵と目が合う。
「………気にするな。お前のせいではない。………団蔵に怪我がなくて良かった。」
安心させるように微笑む長次は、良く見れば擦り傷だらけだ。
「っ、中在家先輩!!今度は、俺が先輩を守りますから!!」
中在家先輩より強く、大きくなって。絶対に………
団蔵の言葉に、長次は微かに頷いた。
「って事があったの、覚えてる?長次さん。」
「だからって………、本当に実践する奴があるか………。」
時は流れて6年後。
忍術学園を卒業した団蔵は、忍者の依頼をこなしつつ、家業の馬借を継いでいた。
そこへ、乗馬の練習をさせて欲しいと長次が訪れたのだ。
自分と一緒の方が早く覚えるからと、嫌がる長次を無理矢理前に座らせ、馬を走らせたのだが。
悪戯心から長次の首筋に噛み付き、驚いた長次は馬からずり落ちてしまった。
落ちた衝撃がいつまでたっても来ないので目を開くと、自分を抱き込む団蔵と目が合った。
「だって、次は俺が長次さんを守るって、約束したもの。」
「…………………しょうがないな………。」
長次はため息をつき、足元の違和感に顔をしかめた。
「…………………団蔵。」
「ごめん、だって長次さんの馬借姿、色っぽいんだもん。」
馬に乗りやすいからと、袴をはかない馬借姿をしていた長次の太股を、団蔵の手が撫で回していた。
長次に恋心を抱いた頃から、押して押して押しまくって。長次が卒業してからも追いかけ続けた努力が実り、今や二人は加藤村名物の恋人同士になっていた。
ヒョイッと長次を抱き上げ、団蔵は家に向かった。
「ごめんね。完璧に庇いきれなかったみたい。足、捻ったでしょ?」
長次は驚いた。自分のポーカーフェイスは完璧だったはずなのに。
「何年、長次さんを見つめてきたと思ってるの。それくらい、分かるよ。」
得意げに言う団蔵に長次はなんだか、こそばゆくなった。
「手当、してあげる。そんで、終ったら部屋でー−−……。」
耳元に囁かれた言葉に、長次は真っ赤になった。
「………………お手柔らかに………。」
長次からの承諾ももらい、団蔵は満足そうに頷いた。
〜END〜
成長団蔵×長次でした。
下級生×長次、書いてて楽しいです。