KIRI-REQU

□ドナドナ
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「今日から、ここがお前の家だ。」


強面の黒づくめの男に連れられ、少年は目の前の門を見つめた。純和風で厳かなその作りは、いかにも……といった雰囲気を醸し出している。



「高坂、諸泉。その子を部屋まで案内してあげて。」


顔半分以上を包帯で隠す男が部下の二人に命令し、側近らしき男を連れて先に門の中へと消えていく。


高坂、諸泉と呼ばれた二十歳前後であろう部下たちは少年の両脇を固め門の内側へ足を踏み出した。


(…………この門をくぐれば…………もう二度と、元の生活には戻れない…………。)



襲い来る不安を振り払うように深く呼吸をし、少年…………中在家長次は門をくぐったのだった。






















幼い頃に両親を事故で亡くし天涯孤独になった長次は、親戚中をたらい回しにされ育ってきた。中学生になってしばらくして今の親戚に引き取られたのだが、この親戚というのが多大な借金を抱えていて、毎日借金取りが家に来る始末。そのせいか、叔父叔母の理不尽な怒りは全て長次に向けられ、虐待まがいなことを受け続けた彼の頬には大きな傷が目立っている。

そして、今年で中学も卒業という頃に長次の運命が大きく狂う出来事が起こった。









「返せない……じゃ、困るんだよねぇ。君達が出すもの出してくれないから私が出てくるはめになっちゃったじゃない。」



この日、取り立てに来ていたのはいつものチンピラなどではなく、あきらか幹部ではなかろうかと思われる男だった。穏やかな口調ながら、どこか迫力を感じてしまうのは包帯まみれの不気味な外見と、その独眼の鋭さからか。




「お金なら、いくらでもつくれるでしょ?その臓器を売るなりしてさ。」


さらりと、楽しそうな口調で恐ろしいことを言う。それでも、それが冗談などではないことを流石に叔父夫婦にも分かるようで顔面蒼白になっている。


隣の部屋にいた長次は、少しだけ隙間をあけた襖から覗きこみ、その様子を伺っていた。どうせ、このあと腹いせに殴られるのは自分なのに、あまり不安を煽ることは言わないでほしい……。


「…………………………ーーーっ!!?」


虚ろな気持ちで眺めていた長次と、包帯まみれの男の目が一瞬だけかち合った。包帯で隠れた口元が歪んだようにも見えて、長次は思わず後ずさる。



「…………………………じゃあ、君たちに選択肢をあげようか。」



愉しそうに独眼を光らせ、男が叔父夫婦に向き直る。



「今、ここで、君たち二人の臓器を差し出すか。それとも………………あの子を私に差し出すか。」



「なっ…………!!?」



長次はもちろん、叔父夫婦も驚き目を剥いている。



「悪い話じゃないだろう?どちらかを差し出せば、借金は帳消しにしてあげるって言ってるんだから。」



長次は目眩を覚えて頭を抱えた。こんなの、答えは決まってるようなものではないか。どちらを差し出せば得かなんて、馬鹿でもわかる。

















こうして長次は叔父夫婦の家を出、知らない者は無いだろう黄昏組へと足を踏み入れたのだった。












 
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