KIRI-REQU
□長次くんご指名です
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「長次くんご指名だよー。」
何ともやる気の無さそうな声に呼ばれ、長次は顔をあげた。
「…………店長、表に客が居るんですから、大声で本名を呼ばないで下さい…………。」
「あ、ごめんごめん!じゃあ、時間おしてるから急いでおくれよ、フェアリーくん。」
そのふざけた源氏名に長次は顔をしかめる。妖精などと、成人した男につけるものではないと思う。しかも自分は無口、無表情、無愛想の三拍子揃った可愛いげのない男だと自覚もしている。…………ぶっちゃけ嫌がらせだろ。
「んー?ピッタリだと思うけどなぁ…………君、可愛いもん。」
思考を読み取ったのかニイッと、この店の責任者は笑う。
ここはスナック『ネバーランド』。女たちが客に奉仕するところだ。
まぁ、…………………………表向きは。
店の奥にカーテンで隠された空間。ここでも、客に奉仕する者たちがいる。ここにいる彼らは春を売る者、今風に言えばヘルスとでもいうのか。
長次も、そちら側の人間だ。なぜそんな所で働いているのかと聞かれたら、「お金が必要だから」としか言いようがない。手段など選んでられないのだ。
そして、ここには年頃の女たちがいるというのに……、男の、しかも顔に傷持ちで、いかにも……な見てくれの自分を買う者も確かにいるのだから世も末だ。
「まぁ、女の子と違って本番までいけるし、中出しもできるからねぇ。」
「…………もっと綺麗な男だったら分かるけど……なぜ、私みたいなヤツなど…………。」
「長次くんはネガティブだねぇ。………………言ったろう?君は可愛い。だから、こうも毎日客が絶えないのさ。……さぁ行った行った、お客様がお待ちだよ。…………今日は、いつもより楽しめるんじゃないのかな?」
意味深な笑みを残し、奥へと引っ込む店長を見つめ、長次はため息をつきながら客の待つ部屋へと向かった。
「やぁ、待ってたよ。フェアリーくん。」
「………………………………え?」
中に入った長次は目をしばたかせた。気のせいだろうか、客が複数に見えるのだが…………。
「何かの手違いらしくてね。君の予約がブッキングしてしまったらしい……。」
「…………………………は?」
そんなことなどあり得るのか?と長次は訳もわからず戸惑う。
「でも、誰も譲る気はない……。だから、フェアリーくんを皆で可愛がってあげようかってことになったんだよ。」
店長の承諾も得ていることだしね?
楽しそうに笑う男たちを前に、長次はまさか……と目眩がした。
(あのクソチンピラ野郎…………っ!)
店長のニヤニヤした顔が浮かび、悪態をつく。しかし、無理だからと客に断るのも気が引ける。
長次はこっそりとため息をつき、男たちの方へと歩を進めた。