KIRI-REQU

□浮気なあの子の愛し方
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ある日の放課後、裏庭に来た文次郎は衝撃的な場面に出くわした。







「中在家先輩!好きです、僕とお付き合いして下さい!」


「………………………うん。」






長次が、下級生に告白されていたのだ。しかも、それを承諾して………………
























って、いやいやいやいや!!それはダメだろ、だって長次お前はーーーーーー





「俺の恋人だろうがっ、バカタレーーーーーーーッ!!!」









文次郎の絶叫が学園中に響き渡った。















所変わって、ここは会計委員会の部屋。他の委員達を帰らせて、今は文次郎と長次の2人きりだ。




「長次、今月で何回めだ?俺とお前は付き合ってる。これは俺の勘違いか?」



「……………勘違い、じゃない………文次郎は私の、恋人だ………。」



はっきりと、恋人と返した長次に安堵した。これで違うとか言われたら生きていけない……。

付き合うキッカケは、長次からの告白だった。ずっと好きだった長次に好き、と言われてとても嬉しかった。俺も……と返事したときの長次の笑顔はホントに可愛くてしょうがなかった。長次は俺を愛してくれてる、そう思ったのに………。



「じゃあ、何で承諾なんかするんだ。あの時、俺が来なかったら………あいつと付き合う気だったのか?」



「……………………………。」



何も答えようとしない長次に痺れを切らした文次郎は、怒りにまかせて壁を殴りつけた。ドカッというすごい音に長次は竦み上がる。



「………文次郎……血が……………。」



皮膚が切れたのか、文次郎の拳からダラダラと血が溢れている。


しかし、手当をしなくてはと伸ばした手を、文次郎に振り払われた。パシンッと乾いた音が鳴り響く。



長次は叩かれた手の甲をおさえ呆然と文次郎を見遣った。


そんな長次の様子を気にする事もなく、文次郎は口を開いた。




「もう、いい………。お前なんぞ知らん。」


「も、文次郎………っ?」


俯き拳を震わせる文次郎に長次は不安になった。


「俺じゃなくても、良かったんだろう?だったら、他の奴の所にでも行ってしまえっ!」


「っ、文次郎………っ!!」



文次郎はそれだけ言い捨てると、長次を振り返ることも無く部屋から出て行った。


























それから一週間ほど経ったある日。


文次郎は5年生のメンバー達に囲まれていた。視線が刺々しいのは気のせいだろうか。



「…………………何の用だ?」


文次郎は不機嫌そうに一つ下の後輩達を睨みつけた。




そんな視線にも臆することなく雷蔵が口を開く。




「………………潮江先輩のせいですよね?最近、中在家先輩が落ち込んでるのは。」



「………………………え?」




文次郎は驚いた。あの日から一週間、長次とは驚くほど顔を合わせなかった。お互い避けていたのも原因だろうが。



何で、長次が落ち込むんだ。むしろ落ち込みたいのは俺の方だ。好きで好きで好きで、やっと手に入れた長次に浮気されたんだから。…………そう思っていた文次郎だったが、ふと、あることに気がついた。




「………………何で、俺のせいだと………?」



俺と長次が付き合っているのは誰も知らないはずだ。長次が恥ずかしがるかと思ってずっと黙っていたし、2人きりになる時も周りの気配に気を配っていたから。







文次郎の考えていることがわかったのか、鉢屋が口を開いた。


「知ってますよ。だって俺達みんな中在家先輩にフラれてるんですから。」



「…………………………は?」



意外な台詞に文次郎はポカンとなった。


フッた?長次が?………嘘だろ?だって、長次はあの時、後輩の告白に頷いて………。



「潮江先輩、知ってます?中在家先輩が告白の返事に何て答えてるか。」


そう言う久々知に、知るわけないだろ……と視線を向けた。



すると、竹谷が代わりに口を開く。



「…………『うん、ありがとう。でも、私が愛してるのは、文次郎だけだから………。』って、言われたんですよ。俺ら全員。」



「っ!?」




文次郎は息をのんだ。




「どうせ、その場面を中途半端に目撃した潮江先輩が勝手に勘違いして、一方的に八つ当たりしたんでしょう?」



尾浜の言葉に文次郎は何も言えなかった。まったくその通りだったから。文次郎は堪らなくなり、5年生達を押しのけて走り出した。


























文次郎は長次の部屋の前に来ていた。しかし、来たは良いが戸を開けるのを躊躇ってしまう。


…………自分の勘違いで長次を傷付けてしまった。



文次郎は意を決して戸に手をかけた。すると、



ガラリ、と一瞬早く内側から扉が開き、目の前に長次が立っていた。突然の事に、文次郎の思考が一時停止する。



長次も驚いたように目を見開いたが、すぐに視線を逸らし、文次郎の横をすり抜けて行く。我に返った文次郎は、慌てて長次の手を取り引き留めた。



「………………あの、長次。」



謝らなければと思うのに、なかなか言葉が出てこない。文次郎が吃っていると、長次がぽつりと口を開いた。






 
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