KIRI-REQU
□空オーケストラ
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「長次、カラオケ行こう!!」
放課後、同じクラスの小平太にカラオケに誘われた。
(………人前で歌うの好きじゃないんだけど………。)
「長次、歌うの上手いじゃん!音楽の先生にも褒められてたぞ?」
言いながら長次の腕を引く小平太は、人の意見を聞く気は無いらしい。
長次はため息をついて、大人しくついて行くことにした。
……………まさかあんな大惨事が起ころうとは、この時の長次には知るよしもなかった。
「お待たせーーー!!」
「遅いぞ2人共!早く入って来い。」
先に来ていた仙蔵が2人を中へと促した。
「あれ?あとの3人はどうしたの。」
「ああ、さっきトイレに行ってたぞ。ついでに飲み物を取って来ると言っていたから、もう少ししたら帰って来るだろ。」
「えー、フリードリンクにしたの?自分で取りに行くの面倒臭いじゃん。」
フリードリンクは安いし、学生の自分達には助かるが、部屋の外にあるサーバーまで取りに行かなくてはいけない。
「うるさい。最中に他人に入って来られたら嫌だろう?」
ニヤリと意味深な笑みを寄越され、小平太は「あー…。」と視線をさ迷わせた。
訳の分からない長次は、歌っている最中に店員が入って来たら恥ずかしいって意味だろうなと一人納得する。
「お待たせー、仙蔵。あれ、長次と小平太やっと来たんだね。」
両手にグラスを持った伊作が入って来た。その後ろには留三郎と文次郎もいる。
「ちょうど2人の分も持って来たから。長次、オレンジとウーロン茶どっちがいい?」
「……………ウーロン茶。」
伊作からグラスを受け取り、席についた。
「長次!何歌う?………あれ、仙ちゃん珍しいね。そんな真剣に選曲しちゃって。」
長次の両隣を占領した小平太と仙蔵だったが、選曲中の仙蔵は今までに無いくらい真剣に分厚いリストを凝視していた。
「いやなに、長次にエロい歌詞の歌を歌ってもらおうかと思っゲフンゲフン。」
「っ!?」
咳ばらいでごまかそうとした仙蔵だったが、隣にいた長次には完璧筒抜けだ。
「えー、そんなのじゃなくても長次の歌声はエロいぞ?なっ!長次!!」
なっ、じゃねえよ。何言ってんだお前。と、長次は心の中でツッコんだ。
「あっ、じゃあ長次コレ歌ってくれ!!」
仙蔵が指差したところに目をやる。
『ラ●のラブソング』
「……………………………。」
あれか。私に「好きよ好きよ好きよウッフン」て言わせる気だな?
「………………やだ。仙蔵が歌えば良いだろ。」
「私が歌っても萌えないだろ。」
「知らん。」
長次と仙蔵の平行線な会話にラチがあかないと思ったのか、小平太が長次の袖をひいた。
「じゃあ長次、私とコレ歌おう!!」
「ああ………、これなら…。」
長次の承諾を得て、早速小平太が曲を送信する。
流れてきたのは、今テレビやラジオでよく聞く曲だ。男性2人組で高音と低音のハモリが綺麗だと、人気急上昇中のユニットだった。
高い声を出すのが苦手な長次は、歌い出しを小平太にまかせた。
自分のパートが近づきマイクを握りなおす。歌いだそうと口を開いた、その時。
モミッ
「ひぁんっ!?…………〜〜〜っ!!仙蔵!!」
仙蔵に尻を揉まれ、あられもない声がマイク越しに室内に響き渡った。長次は恥ずかしくなり、頬を真っ赤にして仙蔵を睨みつける。
「だって、触りたかったんだもん☆」
「だってじゃない!!恥ずかしいだろ、あ、あんな声……!」
「そうかな?恥ずかしくなんてないよ。長次の声、可愛かった。」
机を挟んで正面に座っていた伊作が身を乗り出し、
「もっと………聞かせてほしいな。」
「…………え?……っちょ!」
ドサァッ
その囁きと同時にソファーに押し倒された。
押さえつけたのが伊作や仙蔵だったなら振りほどけたかも知れないが、それが体育会系の留三郎と文次郎では歯が立たない。
「……っ、留三郎、文次郎……放せっ!」
「暴れるな長次。大人しくしてたら、ちゃんと気持ち良くしてやるから。」
「そ、そういう問題じゃ……っ!!ちょ、どこ触って……!!ひゃうっ!」
カッターシャツの裾から仙蔵の手が忍び込み、肌をまさぐられ声をあげてしまった。小平太がマイクを長次に向けていたため大音量で響き渡る。
「あんまり大きな声を出すと、他の客に聞こえるぞ?」
腕を押さえ付けていた文次郎が、ニヤリと笑い呟いた。
長次は一瞬だけ目を見開き、唇を噛んだ。悔しさで涙が溢れるが、その表情が5人を煽っていることに気づいていない。
「うん、小平太の言った通り。長次の歌声ってエロいね。」
伊作の言葉に、歌ってねぇよボケ!と心の中で悪態をつく。ホントは直接罵ってやりたいのだが、今口を開いたら確実に喘いでしまう。