KIRI-REQU

□まずはお互いを知りましょう
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トンッと背中が壁に当たった。つまり、逃げ場を無くしたのだ。

長次は焦っていた。どうして……、どうしてこんなことに!?


壁際に追い詰められ縮こまる長次に、ジリジリとにじり寄る2つの影。


「さぁ、長次くん。今日こそは逃がさないからね?」


「長次、自分から言い出した事だ。責任は取らねぇと、な?」















事の発端は昼休みの保健室、伊作が持って来た花札だった。


ちょうど、伊作に薬草の本を渡しに来た長次も巻き込まれ、長次と保健委員の面々でやっていたのだが、5年生の演習で怪我人が出たらしく皆行ってしまった。


「ごめんね長次、僕から誘っておいて………。」


申し訳なさそうに頭を下げる伊作に、気にするなと声をかけ、手当に行かせた。敷居に躓いて派手にすっ転んでいたが、見なかったフリをしておこう。




「……………手当てしてる時は、格好良いんだけd「えっ!長次くん、伊作くんが好きなの!?」



うわ、出た………。

いつも無表情の長次が、あきらかにウンザリした顔になった。

現れたのはタソガレドキ忍組頭の雑渡昆奈門。いつどこで見初められたのか、保健室に来る度に絡まれている。

伊作に本を渡しに来たときすでに視線を感じていたから、すぐに出て行こうとしたのだが、花札に、しかも下級生に笑顔で誘われては断れなかった。



「………………お前に、関係ないだろう。」


「ひどいなぁ。………好きな人が他の男を褒めてたら、普通気になるでしょ?」



近い近い近い近い近い!!

やめて、そんな近づかないで。お前が近づくと、アイツまで来ちゃうから!!!




「大丈夫か!?長次ぃぃいいいっ!!!」




ほら来たぁぁああああ!!!!


スッパァァァアアアアンと勢いよく戸を開けて飛び込んできたのは、風魔流忍術学校6年生の錫高野与四郎。こいつもいつ見初めたのか、学園に来る度に自分の元にやって来る。


「…………………何で、ここにいるんだ。」


「ん?学園長先生に用があってさ。ついでだから、長次の顔、見てこうと思って。」



「じゃあ、目的は果たしたね?邪魔だから帰りなよ。」


「はぁ?」プッチーン



バチバチッと火花を散らす2人に挟まれて、長次はため息をついた。


「…………あれ?長次、それ花札?」


ふと、長次の手に握られている花札に気づき、与四郎が長次の側にしゃがみ込んだ。


「ああ。伊作が置いていったんだ。」


雑渡もしばらく花札を見つめていたが、何か考えついたのかニヤリと笑った。


「ねぇ、この花札で勝負しようよ。」


「「………はぁ?」」


「勝った人は、負けた人に何でも命令できる。これでどう?」

「乗った!!!」


「ちょっ……!!」




雑渡の申し出に与四郎が賛成し、長次もそれに巻き込まれてしまった。



「………さぁ、初めようか?」

















「「…………………うそ。」」

「………私の………勝ちだ。」

全戦全勝で長次の圧勝だった。





「長次くん………!!さっきの流れからいったら、ここは長次くんが負けて、罰ゲームで2人に、にゃんにゃんされるのがお約束でしょ!?」


「(にゃんにゃんて…………。勝って良かった……!)………知らん。それより、勝った奴が命令できるんだったな?」



「え?あ、うん……。」
(嫌な予感…………。)



「2人とも帰れ。」


「「!!!?」」



そっけなく命令する長次に、ショックを受けた。


「長次……。何で、そんなに冷たいんだ!?」


「私たちのこと、嫌いなの?」
自分達は、こんなにも長次のことが大好きなのに………。



「そんなこと、言われても、困る………。2人のこと、よく知らないし………。」



「じゃあ、教えてあげる。どれだけ長次くんを愛してるか……、私たちがどんな男なのか。……………じっくりと、ね?」


ニヤリと笑う雑渡に嫌な予感がして、反射的に逃げようとしたが腕を掴まれて出来なかった。

そして、長次を引きずりながら壁際へ行き………


コンコン

カチリ

ぐるんっ


「えぇええっ!!?」


保健室の壁が、一人通れるくらいの幅で回転した。向こう側には部屋があるらしい。


「すごいな!隠し部屋か!!」

与四郎も感心したような声で驚いている。


「屋根裏に潜んでる時にたまたま見つけてね………。伊作くんさえ、この部屋の存在は知らないみたいだったから………。さあ、入った入った。」


先に押し込まれた長次は、意外に広い隠し部屋に驚いた。都合よく布団が敷いてあるが、とりあえず見ないふりをしておこう。



「さて、ここなら誰も来ないし、邪魔もされない………。」


「じぃっくり、俺達のこと教えてやるからな?」




ジリジリとにじり寄る2人から逃げるように後退りするが、壁際に追い詰められて、逃げ場を失った。


(この2人相手では、勝てる自信がない………。)



長次は諦めたように、ゆっくりと目を閉じた。












 
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