KIRI-REQU

□風邪引き長次の災難
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中在家長次が風邪で倒れた。


この報を聞き付けた保健委員はすぐさま長次の身を保護し、新野先生の指示の元、保健室に隔離した。

こうでもしなければ長次の身が危ない。




いつもなら縄標を奮って応戦できるのだが、今は立つことさえ危ういのだ。こんな時は決まって長次が襲われる。

彼の貞操を奪おうとする輩たちによって………。















「中在家先輩、大丈夫ですか?喉渇きませんか?」

「先輩、タオル取り替えましょうね?」



保健委員の一年生、乱太郎と伏木蔵がかいがいしく長次の看病をしていた。
普段が無表情なため、こんな苦しそうな顔の長次を見るのは心が痛む。


「………………………。」


不意に長次が目を開き、何事か呟いた。上手く聞き取れず、耳を口元に寄せてみると……


「私の、ことは、いいから……教室に……戻れ………。」


「そんな……。出来ませんよ!こんなに苦しそうな先輩を放っておくなんて……!!」



「………大丈夫。一人じゃ、ない…から。」


「え?」


「…………いるんだろう?」


長次が天井を見上げて声をかけると………


「おやおや、バレてた?」


「「雑渡さん!!!?」」


長次の呼び掛けに素直に応じたのは、タソガレドキ忍組頭の雑渡昆奈門。


「さぁ、長次くんは私に任せて君たちは教室に戻りなさ「「それは出来ません!!」」


「……え、何で即答!?」



「私たち、伊作先輩から言われてるんです!雑渡さんを中在家先輩に近づけるなって。」



当の伊作はと言うと、長次を狙う危険人物の一人として保健室には立入禁止になっていた。




「うーん、さすが伊作くん。そこのところは抜け目ないねぇ。」


雑渡が感心していると、長次が上体をゆっくりと起き上がらせ、

「……………伊作には、私から言っておく………。二人とも、教室に戻れ……。風邪が移っても、困るし……な。」


それでも心配そうな二人に、ふと笑いかけた。力が入らないので、いつもの不気味な笑みではなく、ふんわりとした微笑だった。


「一年生で習うのは、全て基礎中の基礎………。しっかり、学んでおけ。」


呆けたように長次の顔を見つめる二人の頭を撫でてやる。すると、頬を染めた二人は「休み時間にまた来ますから……。」と立ち上がり、




「「私(僕)たちがいないからって、中在家先輩に手ぇ出すなよ?この全身包帯野郎。」」


まるで伊作みたいな黒微笑を浮かべ、雑渡にしか聞こえない小声で言い捨てて教室に戻って行った。






「………長次くんは天然のタラシだねぇ……。」


「…………はぁ?」


「だって、乱太郎くんと伏木蔵くんの顔、赤くなってたじゃない。」


「…………だから?」


「……………………………。」

はぁ〜。と、ため息をつく。タラシに加えて鈍いときた。こんなんで、今まで良く襲われずに無事だったなと感心する。



この調子だと、忍組頭の自分が何故わざわざ会いに来ているのか分かっていないのだろう。


(……………ま、いいか。)


「ほらほら、大人しく寝なさい。」

と、長次を布団に寝かせた。
が、


「………………何で、お前まで入って来るんだ。」


あろうことか、雑渡が布団の中に入り込んできた。


「だって………。こっちの方が暖かいだろう?」


ぎゅうっと長次の身体を抱きしめて耳元で低く囁く。


ビクッと身体を揺らした長次の顔に、赤みが増したのは風邪のせいだけでは無いのだろう。


「長次くん可愛いなぁ〜、食べちゃいたいなぁ………。」


「出てけ、変態。」






布団の中で必死の攻防を繰り広げていると、



「長次ー!?風邪引いたって聞いたけど、大丈夫な………のか………。」



スパァアアアンッと勢いよく襖を開けて飛び込んで来たのは、最初から標準語で話す錫高野与四郎だった。




「お前……錫高野?珍しいな、訛ってないなんて。」


「しょーがねぇよ。管理人が諦めちまったんだから。」


「そうか。生まれも育ちも九州だからな奴は。神奈川弁は分からなかったのか。」


「そうそう……って違う!やい曲者!長次から離れろ!!」



「………………嫌だ。って言ったら………?」


与四郎と雑渡が睨み合う。



「………長次!そんな年増より俺の方が暖かいぞ、こっちに来い。」


「んなっ!?長次くん、ダメだよあんな乳臭いガキの所へ行ったら!」


「んだとぉ!?」



「……………おい、ちょっと………。」


長次を挟んで雑渡と与四郎がギャーギャーと口論しだした。


あぁ、もう……と、頭を抱える長次だったが


「ふん!こっちは若ぇからな。長次が満足するまで付き合ってやる体力には自信があんだよ!」


「はっ!体力だけあってもねぇ……。こっちは経験豊富だから、長次くんを乱れさせる自信はあるよ?」



何か、話がおかしな方向へ行っているのに気づいた。



……………まずい………。この流れは非常にまずい!!



そろりと布団から這い出して、外へ逃げようと試みた。が、


ガシッ




 
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