1章「そして彼女は目を覚ます」
□2話
2ページ/2ページ
「アデル、大丈夫だった?」
カノンノがアデルのもとに走り寄ると、アデルはまた目を大きく見開いてアックスピークが消滅した場所を見つめていた。
「アデル?」
心配になったカノンノがアデルを覗き込むと、アデルは急にものすごく嬉しそうな表情になってカノンノの腕を揺さぶった。
「すごい、いま、みた?すごかった!ぴかぁってなった!きれいなの、なにかふってきた!それで、ふさふさがみえなくなった!」
「え?え?ら、ライトニングのこと?」
「ライトニングっていうの?あのきれいなの、あれなぁに?」
「ライトニングは攻撃魔法で、小さい雷を降らすことができるの」
「こーげきまほうってなぁに?かみなりってなぁに?」
「えええ!?あの、魔法…知らないの?」
「しらない。おしえて!すごいきれいだった!」
「ええええええ!?」
カノンノにとって、魔法は魔物から身を守るためや、治療方法として生まれた時から身近にある力である。得意不得意はあるにしても、魔法という力を知らないという人には会ったことがない。
「アデルは、どこからやってきたの?」
「どこから?」
「そう、おうちはどこにあるの?魔法を使ってる人、見たことない?」
「おうちって、なぁに?」
「…え?」
「わたし、わからないこといっぱい。わかるのは、わたしの名前、アデル。それだけ」
「名前、だけ…?」
「うん。あ、もうひとつあった。あなたの名前、カノンノ。おしえてくれてありがとう。」
わかることが増えると、嬉しい。
アデルはそう言って笑う。
カノンノは唖然として口を開いた。
「ええええ…?じゃぁ、どうすればいいかなぁ…」
名前以外の記憶がない。
だから、彼女は小さい子どものような、たどたどしいしゃべり方をするのかもしれない。
いったいなぜ、記憶がないのか。
そもそもなぜ、ここにいたのか。
彼女はまったくわからないという。
悲しそうな顔も不安そうな顔もせず、むしろ少し嬉しそうに言う。
「だからね、しりたいこと、たくさんあるの。これからしるの。すごくたのしみ」
なんという、プラス思考。
カノンノはその言葉を聞いた途端、焦っていた自分の心もだんだん落ち着いていくのを感じた。
そうだ、考えてもしかたがない。
知らないのなら、これから知ればいい。
自分が教えてあげればいい。
「どこかに行く予定だったとか、なにかする予定だったとかも覚えてないんだよね?」
「うん。」
「じゃぁ…いっしょに、来る?」
カノンノがそう聞くと、アデルは少し驚いた顔になって、その後、心から嬉しそうな笑顔になった。
「うん!カノンノといっしょにいたい!」
彼女の無垢な笑顔を見て、カノンノの心にある思いが生まれる。
(私が、この子を守ってあげよう。)
それは、使命感のようなものだった。自分と同い年くらいの少女なのに、精神的にあまりにも幼い彼女に母性を刺激されたのかもしれない。
庇護欲のようなものかもしれない。
ただ、彼女の笑顔があまりにもきれいだったから
その笑顔を、ずっと見たくなったのだ。