1章「そして彼女は目を覚ます」
□12話
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アドリビトムというギルドの名は、ユーリがガルバンゾ国のギルドに所属していた頃に何度か聞いたことがある。
どこの国も属していない「自由のギルド」。つい最近活動を始めたギルドであるため一般の人々への知名度はまだ低いが、同業者の間では「珍しいギルドがある」と噂になっていた。
曰く、空飛ぶ船を拠点としているため活動範囲が非常に広いらしい。
曰く、依頼によって得た収益のほとんどを貧しい人々にほどこしているらしい。
曰く、ギルドを構成しているのは9割が子どもらしい。
街の自衛目的や商業目的のために結成されることの多いギルドの中では、たしかに極めて異質なギルドだ。
(まさか、その噂のギルドで自分が働くことになるとは思っていなかったが…)
5日前、エステルがあの森で偶然アデルという少女に助けられた縁でユーリ達一行はギルド・アドリビトムにやってくることになった。
ギルドのリーダーは大変気前が良く、星晶採掘跡地への調査を依頼として引き受けてくれただけでなく、事情があって国に戻ることができない3人をギルドの正式なメンバーとして雇い入れてくれた。
そして、故に今。
ユーリはバンエルティア号のホールにて、なぜか真珠貝をひたすら削らされていた。
(成金女のパーティーのために真珠貝のブローチ10個作らされるとは…さすがに予想外だったな)
エステルとリタは今、ルバーブ連山で魔物退治の依頼に向かっている。
姫であるエステルはもちろん、研究者であるリタもギルドの活動はいままでしたことがない。そこでまずはギルドのやり方に慣れてもらおうということになり、
「何回か依頼をこなせばすぐに慣れるよ、イケルイケル!」
とやけに張り切ったお嬢さんと
「今日一日は僕らが同行するから、わからないことはなんでも聞いてね」
とやけに知り合いの騎士団隊長と顔が良く似た青年に連れられて行った。
ユーリはというと、元々ギルド出身者であることから、彼らには同行しなかった。代わりに、
「この納品依頼とかはどう?やったことないでしょ、他のギルドではめったに引き受けることがないから。ちょうど、エミルとアデルがこの依頼やるって言ってたから教えてもらうといいよ」
とアンジュに言われ、この「真珠貝のブローチ10個納品」という納品依頼を引き受ける羽目になったのである。
「俺はできたら、戦ったり戦ったり戦ったりしてぇんだけどな…」
「ユーリも戦うの好き?わたしも大好き!」
隣にいるアデルは、慣れた手つきで真珠貝をブローチにふさわしい形に削っていく。
5日前、出血多量で死にかけた彼女は昨日から医務室のベッドを出ることが許された。今日はリハビリをかねて船の中でできる依頼だけを引き受けることになったらしい。
「でも、ブローチ作りも楽しいよね」
「そうか?つーか、ギルドに依頼する金があるなら店に買いに行ったほうが早いような気がするんだがな…」
「…依頼主の人が住んでる国では、真珠貝が取れないから店で売られてないんだよ。星晶に恵まれた国じゃないから、輸入だって簡単にできないし」
そう、若干棘を含んだ声で言ったのはエミルという少年だ。彼は手際良く、プロ並に細かい細工を真珠貝に施していく。
「星晶大量消費国の人にはわからないかもしれないけどね」
エミルは小さな声だったが、あきらかに敵意を持った目でユーリを睨んでいる。
(おーおー、敵意むきだしかよ…まぁ、無理もないか)
エミルはガルバンゾ国の同盟国出身者だ。
だが、同盟国とは名ばかりであって実際は「植民地」とあまり代わりない。
そのことに腹をたてた住民がクーデターを起こし、政府側がこれを弾圧。結果、「血の粛清」というガルバンゾ国にまで伝わるほど大きな騒動が起きた。
エミルの両親は、その騒動で亡くなった。
つまり、ガルバンゾ国は彼にとって親の敵に等しいのである。