1章「そして彼女は目を覚ます」
□9話
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エステルには、道なりに走る以外選択肢はなかった。
後ろから、ウルフの足音と息遣いが聞こえてくる。エステルの足よりもウルフの方が、当然速い。
だというのに、一向に追いつかれないのは…この状況をあの男が楽しんでいるのだということだろう。
*
『エステリーゼ様を、こちらに渡してもらおうか』
エステル達は、あと少しでコンフェイト大森林の採掘跡地にたどり着くところで、大勢のウリズン帝国の兵士に囲まれた。
『逃げろ、エステル!先に採掘場に行け!』
仲間に無理やり背中を押され、エステルは走り出した。
兵士の放った矢が右腕をかすって血が流れたが、気にしている余裕はない。
何よりも大切なことは、採掘跡地の場所をウリズン帝国に知られないようにすることだ。
ユーリがわざと叫んでくれたおかげで、エステルが逃げれば、その方向に採掘跡地があると彼らは勘違いしてくれる。
だから、エステルはその場を離れる必要があった。走らなければいけなかった。
それでも、仲間を見捨てて逃げているという罪悪感に心が苛まれる。
(どうか、二人ともっ…無事でいて!)
痛む腕を押さえながら、転びそうになりながら、息を吸うだけで苦しくても、それでもエステルは走った。
「無駄だよ、エステリーゼ様」
寒気のするような声が、すぐ後ろからした。
あの男だ、逃げなければ。
どこへかはわからない、それでも走らなければ。
道の先は、大樹の根によって途切れていた。
それでも、後ろから追われている恐怖で道を変えることができなかった。
(どうすればっ…)
絶望的な状況で、エステルが途方に暮れた時、
ガサガサガサッ
「きゃっ」
「ひゃぁっ」
彼女が、現れた。