1章「そして彼女は目を覚ます」

□9話
1ページ/5ページ


エステルには、道なりに走る以外選択肢はなかった。

後ろから、ウルフの足音と息遣いが聞こえてくる。エステルの足よりもウルフの方が、当然速い。
だというのに、一向に追いつかれないのは…この状況をあの男が楽しんでいるのだということだろう。





『エステリーゼ様を、こちらに渡してもらおうか』

エステル達は、あと少しでコンフェイト大森林の採掘跡地にたどり着くところで、大勢のウリズン帝国の兵士に囲まれた。

『逃げろ、エステル!先に採掘場に行け!』

仲間に無理やり背中を押され、エステルは走り出した。
兵士の放った矢が右腕をかすって血が流れたが、気にしている余裕はない。

何よりも大切なことは、採掘跡地の場所をウリズン帝国に知られないようにすることだ。

ユーリがわざと叫んでくれたおかげで、エステルが逃げれば、その方向に採掘跡地があると彼らは勘違いしてくれる。
だから、エステルはその場を離れる必要があった。走らなければいけなかった。

それでも、仲間を見捨てて逃げているという罪悪感に心が苛まれる。

(どうか、二人ともっ…無事でいて!)

痛む腕を押さえながら、転びそうになりながら、息を吸うだけで苦しくても、それでもエステルは走った。

「無駄だよ、エステリーゼ様」

寒気のするような声が、すぐ後ろからした。

あの男だ、逃げなければ。

どこへかはわからない、それでも走らなければ。

道の先は、大樹の根によって途切れていた。
それでも、後ろから追われている恐怖で道を変えることができなかった。

(どうすればっ…)

絶望的な状況で、エステルが途方に暮れた時、

ガサガサガサッ

「きゃっ」
「ひゃぁっ」

彼女が、現れた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ