1章「そして彼女は目を覚ます」

□8話
1ページ/3ページ


コンフェイト大森林は、人が二人並んで歩けるほど大きな枝を持つ大樹によってつくられた森である。

昔ヒトが地面に作った道は、新たに成長しようとしている木々の茂みによって塞がれている。そのため、複雑に絡み合う枝を道代わりにして茂みを避けながら、大量の物資をつめたリュックを背負うギルド・アドリビトムのメンバーはヘーゼル村を目指していた。

「そういえば、このメンバーで依頼に行くのは初めてだよね」

一番後ろを歩くシングが、一列になって枝の上を進む仲間に向かって声をかける。

「そう言われてみれば、そうですね」

シングの前を歩くミントが前を向いたまま頷く。いつも着ている白いローブと背中の荷物のせいで歩きにくいらしく、足取りは慎重だ。

「だいじょうぶ?ミント。わたし、もっと荷物もてるよ?」

ミントの前を歩くアデルは、すでに自分と同じくらいの重さの荷物を背負っている。
小柄な彼女に物資配達の依頼を受けさせることをメンバー全員が不安がったが、「クレア達の村のためだから、頑張りたい」というアデルの強い希望と、「持てなかった分は、俺が持とう」というヴェイグの後押しで彼女も参加することになった。

「お前はそのくらいにしておけ。いざという時に動けなくなったら困る」

唯一ヘーゼル村へ続く道を知っているヴェイグは、一番重い荷物を背負いながら先頭を歩いている。この森の中で育っただけあって、不安定な枝の上でも足取りはしっかりしている。

「大丈夫だよ、今日は魔術師だから。動けなくても戦えるもの」
「それでも駄目だ。荷物が多すぎればバランスも悪くなる。…また枝から落ちるぞ」
「あ、でもね!こないだ落っこちたときはちゃんと受け身がとれたから、怪我しなかったんだよ!」
「そういう問題ではない」
「落ちた場所が悪ければ、合流できなくなってしまうかもしれないんですよ。二度と会えなくなってしまう可能性だってあります」
「ええっ!?ど、どうしよう!」
「ええっ!?そうなったら大変だ!あ、そうだ。ヴェイグとアデルが手をつないで歩いたらどうかな?そしたら、落ちる心配はないよ!」
「なんで俺だ」
「今の並び方ではそうなるかなって思ったんだけど。ヴェイグが嫌なら、俺がつないであげるよ。」
「では、アデルさんと私が場所を変わりましょうか」
「いや、場所を入れ替わるのは枝を降りてからにした方がいい。この場所は不安定…」
「待って!!危険だよ、魔物が来る!」

アデルがそう言うなり、頭上から、チュンチュンの群れが襲いかかってきた。

「ファイアボール!!」

アデルの放った火の玉が群れの中央に衝突し、チュンチュンの群れが離散した。

「はっ!」

「やぁっ!」

ヴェイグ、シングは刀を抜きとりチュンチュンを一体ずつ確実に仕留めていく。

「シャープネスっ!」

ミントの唱えた補助術によって、仲間がオレンジの光に包まれる。攻撃力を上昇させる魔法だ。

「数が多いっ!」
「こいつら…荷物を狙っているのか?」

チュンチュンの狙いは、どうやら背中に背負っているヘーゼル村への物資のようだ。

たしかに、この荷物の中にはチュンチュンの好物である作物の種がたくさんある。だが、これは今年一年の生活を支えるために用意した種だ。渡すわけにはいかない。

「この足場では不利だ、一度地面に降りてから応戦するぞっ」

ヴェイグの指示により、一向は逃げる体勢をとって走り出した。


* 


「…はぁ、はぁ、全員…無事?」
シングは息を切らしながら、周囲を見渡した。

チュンチュンの群れは多かった。
枝から滑り下りるようにして地面に降り立ってからもその勢いは止むことがなく、荷物を庇いながら戦わなければならないヴェイグ達は苦戦した。

ようやく全て追い払うことに成功するまでは、全員が自分と自分の荷物を守ることに精一杯だった。

だから、

「アデルさんがっ…いません!」

ミントの悲痛な叫びが聞こえるまで、仲間が一人いなくなったことにすら気がつかなかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ