1章「そして彼女は目を覚ます」

□7話
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「それでね、エミルすごいんだよ!ガルーダの友達がいるんだって!今度一緒に会いに行こうって約束してくれたのっ」
「へぇ〜、ガルーダの友達かぁ。すごい、どうやって友達になったんだろう…」
「わたしも聞いてみたんだけど、秘密なんだって」

夜になって、寝室に帰るとカノンノとアデルはお互いに今日の出来事を話しながら、ベッドに寝っ転がって絵を描くことが日課になっていた。

「わたしも魔物と友達になりたいなぁ…オタオタとか、かわいいよね」
「ね!わたしはね、ウルフとお友達になりたいっ!あのもふもふをぎゅうってしたいっ」
「…アデル、でもね。魔物は基本的に危険な生物だってことを忘れないようにね。こないだみたいに、不用心に近付かないで。アデルが怪我して帰ってきたとき、すっごく心配したんだから」
「うん、大丈夫。危険なウルフは倒すよ。あ、そういえばね。こないだウィルに借りた本にね、魔物のことでおもしろい話が書いてあったんだよ」

ぱさり、とアデルはスケッチブックを枕の横に置くと、サイドテーブルに置いてあった分厚い本を手に取った。

彼女の棚には、たくさんの分厚い辞書や本がある。ウィルからもらったものもあるが、ほとんどが彼女がギルドで稼いだお金で買ったものだ。

『分からない言葉は自分でも調べろ。暇さえあれば本を開け。』

ウィルに言われたその言葉を、彼女はきちんと守っている。ただ、辞書に書いてある言葉は難しすぎて、彼女には理解できないことが多かった。
だから、初めのうちはカノンノが自分にできる範囲で彼女の疑問に答えてあげていた。分からない言葉は一緒に辞書を読んで、要約してあげた。

けれど、今の彼女は

「あ、ほらこれこれ!魔物には、王様がいるんだって!それで、魔物はもともと、世界樹が世界中のマナのバランスを保つために造った生物なんだって。ウィルは『あくまで仮説の話だ』って言って、この話信じないんだけど本当の話だったら素敵だよね」

分厚い研究書を広げ、複雑な内容を楽しそうに読み聞かせてくれている。カノンノの方が彼女に説明してもらわなければ分からない部分があるほど、彼女の読解能力と理解力は成長していた。

たった、半年で。

「…うん。そうだね」

彼女は頭が良い。
何もわからない、かわいい子供のように扱われることが多い彼女だが、もうその見かたは止めた方がいいのかもしれない。

そう思うと、少しさみしくなった。

「さぁて、続きを描くぞー」
「今日は何を描いてるの?」
「今日依頼でルバーブ峠に言った時に拾ったお花。カノンノは?」
「うーん…なにかの植物、かな。ぜんまいみたいな葉っぱ」
「あ、ほんとだ。なんかおいしそう」
「そうかな?##NAME##のは、やっぱりいつ見ても細かいね」
「そう?」
「うん。色合いとかも、すごく綺麗」
「わたしは、カノンノの絵の方が好きだよ?どこかにある風景、私もみたいなぁ」

カノンノには、自分のスケッチブックに一度も見たことのない風景や植物が浮かんで見える。きっとどこかにある風景だと思うのだが、アデルとロックス以外は誰も信じてくれない。

対するアデルは、人や物の周りを輪っかが囲っているのが見えるらしい。その輪っかはどのようなものなのか尋ねると、彼女もカノンノを真似してスケッチブックに絵を描いて見せてくれるようになった。

今日の絵は、かわいいピンクの花の周りに金の輪っかが5本ある。小さくて少し分かりにくいが、その輪っかは不思議な文字でできているらしい。

「大丈夫?ずっと見ていて、疲れない?」
「うーん、ちょっと疲れてきた…かな?」

アデルはその輪っかを見ているときだけ黄色の目が金色に光る。ずっと輪っかを見ていると疲れるらしく、絵を描き始めたころは輪っかを1本描き終わる前に力付きていたが、最近は見えるものを全て描くことができるようになっている。

「今日はもう夜も遅いし、眠ろうか」
「ん、そうだね」

アデルが今日はこれでおしまい、と言ってスケッチブックを閉じると、彼女の目はまた黄色に戻る。

初めはその目が怖く感じたが、今ではもう慣れてしまった。

「あ、そういえば。この絵、ハロルドも褒めてくれたんだよ」
「ハロルドが?」
「うん。」

ハロルドは、ナナリーと一緒にペカン村からギルドへ加入した新しいメンバーである。
自称「天才科学者」らしく、ウィルの城であった研究室に居座ってなにやら怪しい研究を始めている。アデルが記憶喪失だと聞いた時は、「頭開いて調べてあげよっか?」と注射器片手に聞いてくるわ、「うん、よろしく」とアデルがあっさり答えるわで止めるのが大変だった。

それ以来、カノンノはハロルドを極力避けているのだが、アデルの方はいつのまにか仲良くなったらしい。

「興味深いから、一枚ちょうだいって。だから、その時描いてたマグカップの絵をあげたの」

アデルは嬉しそうだが、カノンノは嫌な胸騒ぎがした。

人には見えないモノが見える、そういうとたいていの人は「何を馬鹿なことを」と呆れた目で見つめてくる。

しかし、ハロルドの場合は逆である。「詳しくその体、調べさせてもらおうかしらっv」と語尾にハートマークをつける勢いでのこぎり片手に走り寄ってくる姿が目に浮かぶ。

「な…なんか、変なことされなかった?」
「変なこと?」
「変な薬飲まされたりとか、体切られたりとかっ」
「なにも?ただ、絵をあげただけ。そしたらハロルドは絵ばっかり見て、何話しかけても答えてくれなくなっちゃった。」
「そ、そっかぁ…うん、それなら良かった。ハロルドに何かもらっても、絶対食べちゃだめだからね!」
「あ、それナナリーも言ってた。でもハロルド、私より手先が器用だから料理したら上手だとおもうんだけどな…」
「そういう問題じゃなくてっ!う〜ん、どうやって説明すればいいかな…」
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