御話

□ドラマみたいな不幸はいらない
1ページ/1ページ


『はい。福田です』
『平丸だけど。丁度今、福田君の仕事場の近くに居てね。よかったらご飯でもどうだい?』
『・・・つーか、いいんスか?明日式じゃないですか』
『独身最後に男同士で話したいんだよ』
『・・・まぁ。オレはいーっスよ』
『じゃ、着いたら連絡するよ』








「悪いね福田君、急に」
「いえ・・・」
「何食べたい?」
「・・・ラーメン」
「おいおい、少しはラーメン以外の物食べたらどうだい・・・あっと。この辺に串の旨い居酒屋あるんだけど」
「じゃあ、そこでいいッスよ」








「とりあえずビールで。平丸さんもビールでいいッスよね?」
「僕は車だし、明日もあるんで烏龍茶にしとくよ」
「ホントに大丈夫なんですか?」
「何が?」
「明日の結婚式。準備とかは?」
「準備は僕の方では何もないよ」
「蒼樹嬢は知ってるンすか?」
「彼女には言ってあるさ」
「なら・・・いーんスけど・・・」
「やけに心配してくれるね?」
「そりゃ・・・平丸さんも蒼樹嬢も福田組の一員ですからね」
「ははっ。そうだな。ありがとう」



「明日、楽しみにしてますから。みんな」
「・・・ありがとう。福田組のみんなのお陰だよ、今の僕がここにあるのは」
「どーしたんスか?そんなにしんみりして。平丸さんオカシイっすよ」
「そうかな?」
「やめてくださいよ?もしかしてマリッジブルーってヤツですか?」
「違うよ。寧ろ幸せ過ぎて怖いくらいさ」
「怖い?」
「そう、幸せ過ぎて怖いんだ。こんなに上手く進んでいると、何か・・・国家の陰謀だったりするのかと思ってしまう」
「相変わらずネガティブな・・・」
「兎に角、幸せが誰かに奪われてしまいそうで怖いんだ」
「大丈夫っすよ。蒼樹嬢はどこにも行きませんって」
「わからないよ。いつ僕なんか愛想尽かされるか・・・」
「あーもう!めんどくせー人だなっ!」
「僕は駄目な男なんだよ」
「蒼樹嬢幸せにするんだろっ?そんなんじゃホントに誰かに取られちまうぞ?」
「君が、奪ってくれないかな?」
「はっ?何をスか?」
「僕から。蒼樹さんを」


「ブハッ。ゲホッげほっ・・・何言って。アンタ正気か?」
「僕はいつだって大真面目さ」
「畜生、アンタが変な事言うからビール鼻に入って痛てぇ・・・」
「大丈夫かい?」
「大丈夫って聞きたいのはアンタの頭の方だ!ふざけたこと言ってんじゃねぇよ」
「奪われるなら、君がいいんだ。まだ間に合うんだよ」
「なんでオレなんスか!?」
「君、蒼樹さんの事好きだったろ?」


「・・・・」
「気付いてたんだよ、本当は最初から」
「・・・だったら何なんスか。蒼樹嬢はアンタを選んだじゃないか」
「それは、君が応援してくれたからだろ?」
「違う・・・」
「本当は蒼樹さんだって・・・」
「くだらねぇ事ばっかり言ってると、いくら平丸さんでも殴りますよ」
「・・・おいおい物騒だな」
「確かに蒼樹嬢の事気になってたけど、オレは平丸さんみたいには出来なかった」
「それは僕がチャンスを潰したせいかい?」
「違う。オレは蒼樹嬢をあんな笑顔にしたり出来ないって思ったから」
「僕はいつも福田君が羨ましかったよ。一番の彼女の理解者だったから」
「一番の理解者は、平丸さんっスよ。オレと蒼樹嬢じゃ、きっと上手くいかない」
「・・・」
「オレ、平丸さんてホントすげーって思って。漫画もスゲーし、好きな女の為なら何でも出来る。だから『あ、オレ負けたな』って素直に思えた」


「福田君・・・」
「だから、オレ後悔してないっスよ。平丸さんと蒼樹嬢の幸せなトコ見て本当に嬉しいし」
「君って本当に良い奴なんだな・・・」
「うわっ。平丸さん泣くなよ!!もうめんどくせーなホント。オレよりいい大人の癖に情けねーなぁ」
「はははっ。情けないオッサンだよ本当に僕は」
「だから、蒼樹嬢も平丸さんなんスよ」
「えっ・・?」
「いや。こっちのハナシっす」


「僕でいいのかな?」
「平丸さんが蒼樹嬢幸せにしなかったらマジでぶっ飛ばしに行きますから」
「はは、福田君にぶっ飛ばされるのは嫌だなぁ」
「だったらつべこべ言わずに蒼樹嬢、幸せにしてやってくれよ」
「・・・ありがとう・・・ふくだくんっ」
「キタネー!鼻水出てる。ハナふけよ!!!」
「ずびびびびび・・・」



「にしても、まだ間に合うってドラマじゃねーんだからそんな事出来る筈ないっしょ!?」
「そうか?チャペルでドーンと扉開けて花嫁連れ去るってカッコイイじゃないか」
「アンタ馬鹿かよ。出来るかフツー。逆にカッコ悪ィっつーの」
「僕はずっとその妄想ばかりしてたけどな」
「しかもアンタの式は神前式だろ」
「ハハハ・・・そうだったな」



「そんな今時流行んねードラマみたいな話ダセーよ」
「僕はダサいのか・・・」
「・・・面倒だなホントこの人。現実でドラマなんかみたいな不幸なんていらないんだぜ」
「そんなもんかな?」
「誰が人の不幸見て喜ぶんだよ」
「・・・それもそうだな」



「明日は、最高の蒼樹嬢の笑顔見せてくださいよ」
「ああ、ありがとう」




とびきりの幸せがみんなに降り注ぎますように。




(了)



*

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ