トラワレビト〜咲き初めの花 媚薬の蝶〜
□第四章 『漆黒の重臣』
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――私は、水面にぷかぷかと浮いていた。
海のように広いところで、果てが見えない。
水はぬるま湯のようで身体を冷やすことなく、とても心地いい。
ぼんやりと薄桃色の空を見上げていると、不意に唇に柔らかいものが触れ、ついで胸元が熱くなった。
そして、痛みも同じ箇所を前触れなく襲う。
だが、嫌悪感も恐怖も不思議と湧き上がってこない。
ちりっと微かな痛みも伴ったというのに、何故かこの熱が途方もなく愛おしく感じられるのだ。
もっと与えてくれたらいいのにとさえ、切に願ってしまう。
どこかもどかしい感覚に身を委ねながら目を閉じた途端、突然熱が消えてしまった。
すると、心にぽっかりと穴が空いてしまったかのような喪失感を覚えた。
――待って、離れないで!
心の底から安らげたというのに、熱は残酷にも遠ざかっていく。
私はその熱を取り戻そうと、必死になって手を伸ばす。
すると、何度も空を掻いた手がひんやりとした何かを掴んだ。