トラワレビト〜咲き初めの花 媚薬の蝶〜
□第二章 『陰謀渦巻く花園』
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田安屋敷で幽閉生活を始めてから、もう三年の月日が流れた。
仄暗(ほのぐら)い部屋に閉じ込められていても、とうに憂鬱な気分にはならなくなった。
今はどのくらいの時間帯なのだろうと、ぼんやりと考えていたら、お玉が茶道具と菓子皿を載せたお盆を持って来た。
「お万様、そろそろお茶の時間にしませんか?」
「あら、もうそんな時間? 太陽の光を浴びてないと、時間の感覚が狂っちゃうのよね。随分慣れたと思ったのに、駄目ね」
「お万様は、充分頑張っていらっしゃいますよ。気をおかしくなされても不思議ではないのに、こうして元気でいらっしゃるんですから。他の女中たちも、感心してましたよ」
そう言いつつ、お玉は手際よくお茶の準備を始める。
私の部屋子になりたての頃は何をやっても手つきが危うかったけれど、今ではすっかり慣れたものだ。
小さな釜(かま)の上に風炉(ふうろ)を置き、湯を沸かす。
すると風炉から、こぽこぽと音が立つ。
頃合いを見計らい、茶杓(ちゃしゃく)で茶器から抹茶を掬(すく)って茶碗に投入し、続けて柄杓(ひしゃく)で湯を掬い、抹茶と同様に投入する。
そして、茶筅(ちゃせん)で泡が立たないよう、静かにかき混ぜていく。
その一連の作法を見ているだけで、つい感嘆の吐息を漏らしてしまう。
部屋の中が濃茶(こいちゃ)の香りで満たされた頃、彼女はすっと茶碗を差し出し、私は受け取るとそれを二回半回してから、そっと口へ運んだ。
甘味がより強く、渋みや苦みが少ない。
上質の茶葉を使うと、こうも格が違うのか。
私は抹茶をゆっくりと飲み干し、お玉に向かって笑いかけた。
「結構なお手前でした」
「お粗末さまでした。やっと感覚が掴めてきたので、そう言って頂けると嬉しいです」
「そうね……お茶を点(た)て慣れてない頃は、妙に味が渋かったり、逆に薄過ぎて味が分からない時もあったものね。そう考えると、随分成長したわ、お玉」
「もう、からかわないでください。私はお万様みたいに、物覚えがよくないんです!」
お玉は頬を膨らまし、ぷいと明後日の方向へ顔を背けてしまった。
私はそんな彼女に笑みを零し、自分の菓子皿を手に持つ。
「はいはい、ごめんなさいね。せっかく羊羹(ようかん)を持って来てくれたんだから、これを食べて機嫌を直してちょうだい」
そこまでへそを曲げていなかったのか、お玉はたちまち口元を綻ばせた。
「それもそうですね。あ、お万様はこのくらいの量でも食べ切れますか?」
私の菓子皿には羊羹が三切れ載っているものの、どれもかなり薄い。
この程度なら、胃もたれを起こしたりしないだろう。
「ええ、これなら残さずに食べられるわ」
私の返答に、彼女は小さく溜息を吐く。