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□どこまでも☆キミを乗せて
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「今月後半はさ、運気下降してるうえに健康運がすっごくダウンしてるんだよね。免疫力が低下して、コンディションを崩しやすいんだって。20日頃が特に要注意なんだよね〜」

 赤くなってる鼻をズビズビしながらもマシンガンのように喋り続けている水谷は、いったいどうやって呼吸してるんだろう。



  どこまでも☆キミを乗せて



 なんてことを一瞬だけ思ったものの、まあそんなの別にどーだっていい。今は1時間目に遅れないように、教室に急ぐのが最優先。

「ねえねえ〜、泉〜、聞いてよ〜。なんか昨日から鼻づまりがひどくってさぁ〜、もうすぐ20日じゃん? この占い当たり過ぎてて怖くね?」
「はあ?」

 思わず階段を駆け上っていた足を止め、数段下の水谷を振り返った。

「もうすぐ20日って、どういう計算してんだよ。まだ今日、15日だろ」

 眉間にシワを寄せながら指摘しても、奴の脱力系笑顔は全く変わらない。顔の前でヒラヒラ右手を振りながら、オレの意見をやんわり否定しやがった。

「いやいや、四捨五入したら15日は20日じゃん」

 いやいやいや、15日は15日だろ! どうやったって20日にはなんねーぞ。
 反論しようかと思ったとき、オレたちの左側を通って階段を駆け上って行こうとした奴の足が、水谷のバッグに引っかかった。バランスを崩した水谷はつんのめって階段に手をつき、あっという間もなくバッグはその手を離れて、すぐ下の踊り場へと落下した。

「何すんだ、おいっ! 待て、ゴルァ!」

 呼び止める声も聞かずそのまま逃げてしまった犯人の行方も気になるが、うつ伏せになったまま起き上がって来ない水谷の方が気になって、オレは階段を駆け降りた。

「おい、大丈夫か?」
「……ってぇ、膝打ったぁ……」

 他人にぶつかられたというのに、水谷はヘラヘラ笑顔を浮かべながら顔を上げた。笑ってるんだけど、無理してんのは見え見えだ。

 自力で立ち上がろうとしているのを制して、左腕を支えて立ち上がらせてやる。

「ごめんね、泉」
 いててっ……と呟きながら立ち上がった水谷は、謝りながらオレの支えている手を離そうとする。

「いいって。まだ痛てぇだろ? よっかかってていいぞ」

 そう言って顔を覗き込むと、水谷は鼻の頭から耳の辺りまで赤く染めながら「うん」と頷いた。大丈夫かな、こいつ、風邪ひどくなってんじゃねーか?

「お前、保健室行ったほうがいんじゃね?」
 ますます覗き込みながら尋ねてみた。が、水谷は顔を赤くして小さく首を振る。

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