Northern lights
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アルテミスから緊急発進してからアークエンジェルの物資不足は日に日に如実になっていった。
キラは食堂で四人分の食事を準備すると、それを医務室へと運ぶ。
あの日以来、フレイとは視線も合わせてはいない。今はなるべく彼女と話しをしたくなかった。今の自分にとって、医務室でシオン、ラスティ、ミゲルの3人と一緒に過ごす時間が、何よりも心安らぐ時間だった。
ミゲルとラスティとは、元々が敵だなんて思えないくらい打ち解けることができ、時折、アカデミー時代のアスランの話しもしてくれる。
ここが、戦艦でなければ・・・何度この思いが胸をよぎっただろう。
「食事、持ってきました」と言えば、「ありがとう」「サンキュー」「今日のメニューなに?」と異口同音に笑みを向けてくれる。
ここにいる間だけは、アルテミスでガルシアに言われた『裏切り者のコーディネイター』という言葉を忘れられた。
4人で和やかに食事をしていると、キラにブリッジへ来るようにとムウが伝えに来た。
「一体何の用件で?」
呼び出された本人であるキラよりも先に、シオンがムウへと質問を告げる。いつのまにかキラの代理(保護者?)的な存在と化したシオンの言葉に、ムウは苦笑する。
「補給の件だ。詳しくは艦長に聞いてくれ」
補給という言葉に、キラとシオンは顔を見合わせた。
物資不足だというのは薄々気づいていたが、補給を受けられる場所などあるのだろうか。そんな疑問を抱きつつも、キラはシオンに促され、ムウと共にブリッジへと足を踏み入れた。
「―――本当に補給を受けられるんですか? どこで?」
「受けられるっていうか・・・セルフサービスっていうか・・・」
疑惑の目を向けるキラに対するムウの歯切れは悪かった。明らかに言葉を濁している。
ムウでは埒が明かないと思ったマリューは意を決したように口を開いた。
「私たちはデブリベルトに向かっています。デブリベルトには宇宙空間を漂うさまざまなものが集まっています。そこには無論、戦闘で破壊された戦艦などもあるわけで・・・」
マリューの言葉にキラは顔を引きつらせた。戦艦があるということは、それらの乗員の存在も必要不可欠なもの。そんな考えに至ったキラの瞳は大きく揺れる。
「まさか・・・そこから補給しようっていうんじゃ・・・」
「仕方ないだろ? そうでもしなきゃ、こっちがもたないんだから」
開き直るムウとは反対にキラの顔に嫌悪感が浮かぶ。
「死者の眠りを妨げようというんじゃないわ。ただ、失われたものからほんの少しだけ、今私たちに必要なものを分けて貰うだけよ。生きる為に・・・」
「あそこの水を!? 本気ですか!」
ブリッジに戻ったキラは驚愕の声を上げた。
遡ること数十分前、船外で補給活動をしていたキラは偶然にもその中からユニウスセブンの残骸を見つけてしまったのだ。
1億トン近い水が凍り付いているというナタルに対し、キラはその水を補給する気にはなれない。この目でユニウスセブンに眠る多くの亡骸を見てしまった後では・・・。
だが、それ以外に水が見つかっていないのも事実。釈然としたものを感じながらもキラは渋々補給活動を再開した。
「つくづく君は落し物を拾うのが好きなようだな」
ナタルが諦めの混じった声色で言葉を発した。
格納庫にはキラが見つけてきた救命ボートが置かれている。マリューとムウは視線を交わしてため息をついた。
ハッチを開くとハロ ハロ≠ニ音声を発してピンク色の球体が飛び出てきた。身構えていた一同は一斉に拍子抜けする。
「ありがとう、ご苦労様です」
愛らしく澄んだ声がしたと思ったら、中からは淡いピンク色の髪をした少女がふわりと躍り出た。踏み出した勢いで、無重力の中そのまま漂っていきそうになる少女にキラは慌てて手を伸ばす。
キラと少女の視線が交わった。
「ありがとう。・・・あら? あらあら?・・・」
手を差し伸べてくれた少年に微笑みながら礼を告げ、くるりと周りを見渡すが、その少年を始め、着ている服は見慣れたザフトのものとは違っている。少女の中に疑問符ばかりが浮かぶ。
「まぁ・・・ここはザフトの艦ではありませんの?」
“ザフト”という単語がその場の空気を凍らせた。