Northern lights

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「うっ・・・・」
 比較的軽傷だった金髪の少年が身じろぎした。
 シオンがタオルで少年の額に浮いた汗をそっと拭ってやると、苦しげに閉じられていた瞼がゆっくりと開き、乾いた唇から掠れた声が絞り出された。
「・・・・こ・・・・こは・・・・?」
「よかった・・・目が覚めたかい? ここは・・・アークエンジェルという連合の戦艦の中だ。ヘリオポリスでのことを覚えているかな?」
 シオンは極力少年を刺激しないようやさしく問いかけた。
 が、連合の戦艦に居るのだと告げた瞬間、少年がピクリと反応したのをシオンは見逃さなかった。当然といえば当然の反応だ。
 その少年はというと、医務室の明るさにまだ目が慣れないのか、目を細めたまま、質問に答えようと記憶の糸を手繰り寄せている様子だった。

「ヘリオ・・・ポリス・・・・そうだ、俺は連合のMSに・・・・だが、誰かが俺を助けてくれて・・・・」
「そう、本当に間一髪だったよ。私が駆けつけるのがもう少し遅れていたら君は乗っていたジンもろともストライクのソードで真っ二つだ。間に合って本当によかった」
 心底ホッとした表情を見せるシオンに、少年は漠然とした疑問を抱いていた。

 自分と戦闘中だった敵MSとの間に割って入ってきた金色のMSとそのパイロット。共に、見覚えがない。
 ザフトである自分が記憶にない機体だというのなら、目の前の人間は『敵』で『連合』の人間なのだろうか。
 なら、なぜザフトである自分を助けたのか。

「・・・ナチュラルのくせに変なヤツだな」
 敵であるコーディネイターを助けるなんて、と呟いた。
 その呟きに、ふわりと笑みを浮かべたシオンが返した言葉に、少年の顔が驚愕に変わる。
「私は・・・コーディネイターだよ」
「・・・!!俺たちの同胞なら、なぜナチュラルの味方を・・・!?」
「やれやれ・・・君はなにか勘違いをしているようだね。言っておくが私は連合の人間じゃない。あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。私はオーブ連合首長国代表代理のシオン・フィーリア。ちなみに、君とそっちに眠っている彼は確かに捕虜になったが、それは連合の捕虜じゃない。我がオーブの捕虜だ。この艦には先だって起こったヘリオポリス崩壊に関する情報収集と、この艦の最高責任者に事の次第の説明を聞く為に一時的に着艦したに過ぎない。それに・・・・」

 チラリといまだ眠り続ける少年に視線を移す。

「君たちの治療も必要だったしね」
「・・・・よくナチュラルどもが許可を出したな?」
「そりゃ、あちらとしたら、こっちに対して多少は罪悪感もあっただろうからね。まぁ、中にはそうでない人間もいたけど、この艦の艦長さんにちょっとお願いしたら、快くこの医務室と治療に必要な物資を提供してくれたんだよ」
 にっこりと笑みを浮かべながら、恐喝をお願いと言い張るシオンに、少年は背中に冷たいものを感じながら、この後、待っているであろう出来事を思い浮かべ、乾いた笑みを浮かべたのだった。

(それって、世間一般的に脅したっていうんじゃ・・・・ラスティ〜、早く目を覚ましてくれ〜!! 頼む! 俺を一人にしないでくれ!!)

 言葉を失っている少年に顔を近づけると、シオンは矢継ぎ早に質問を口にする。
「で? 君の名前は? それと彼の名前は知ってる? 友達?」
「・・・・ミゲル・アイマン。そっちはラスティ・マッケンジー」
 中立国とはいえオーブの捕虜となり、敵である連合の戦艦に収容され、命の恩人は裏表のありそうな奴で・・・現状を理解しつつも、先を考えると気が重くなる。
 知らず知らずのうちにミゲルはため息をもらしていた。
「アイマン君とマッケンジー君ね。私のことはシオンと呼んでくれていい。ファミリーネームで呼ばれるのは肩が凝るからね。あぁ、心配しなくていい。これから私の問いに素直に答えてくれたら悪いようにはしないよ? 大丈夫、私は基本的にやさしいから――――」

 『基本的に』と強調して、ニヤリと口の端を上げたシオンに答えられる範囲に関してだけは決して逆らうまいと心に固く誓うミゲルだった。
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