Northern lights

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 傷者2人を医務室に運んだシオンは改めて艦長室でマリューと向き合った。 

 モルゲンレーテに依頼した]シリーズとアークエンジェルの事、ザフトとの戦闘に陥った経緯など、シオンの尋問じみた質問が続く。

 マリューは一貫してヘリオポリスを戦場にするつもりはなかったと言い、今回の件に関しては軍人としてではなく、マリュー・ラミアス個人として謝罪をしたいと頭を下げた。
 軍人であるマリューはどのような理由があれ、命令に背くことはできない。
 今この場で頭を下げているのも、この空間に2人きりだからなのだろうとシオンは感じていた。
   
(この人・・・個人的にはいい人なわけだ・・・少し認識を改める必要があるかな。あのガチガチの石頭っぽい女士官と違って、この人はまだ人間味があるみたいだし)

 オーブ代表代理として重責を担うシオンはマリューの立場も十分理解できた。
 シオンは小さく息を吐くと、声のトーンを若干上げて表情を緩めた。

「では質問は以上にしておきましょう。私もあなたの立場が理解できないわけじゃありません。元はといえばモルゲンレーテが連合の依頼を受けてしまったことに原因がある。それに、女性をを苛めるのは私の趣味じゃありませんから」
 特にあなたみたいな美人はね、とウィンクして質問を切り上げたシオンをマリューはただ見つめた。
 シオンを取り巻く空気が変わった気がしたのだ。
 格納庫で見せた、堂々たる立ち居振る舞い。銃を向けられながらも臆することなく、自国民を護ろうとしたその姿と、目の前の人間が別人のように感じられた。

「・・・もう、よろしいんですか?」
 もっと非難されるかと思っていた。
 中立の国で兵器を建造していただけでなく、その場を崩壊へと導いてしまった。
 目の前に佇むのはその国の代表代理。

「はい。後は治療中のあの二人から情報を聞き出すだけですから、その後は本国から正規の外交ルートを通してということに。とにもかくにもあなたにお聞きしたいことは終わりました。それと・・・」

 そこでいったん言葉を切ってシオンは窓の外に視線を移す。
 思案するように、遠くを見つめるその表情にマリューは思わず見惚れた。

「あなたもご存知のように我が国は他国を侵略しない。他国の侵略を許さない。そして・・・他国の争いに介入しない。この3つの理念を貫いている。これは何があっても覆してはならないことです。艦に乗せてもらいながらこんなことを言うのは心苦しいですが・・・これから先、あなたたちがザフトと戦うことになっても、私は立場上、あなたたちに力を貸すことはできない。特に私のMSを戦闘に出すことは絶対に・・・アレが連合側で戦うということはオーブが連合に付いたと見なされてしまう――――申し訳ありません」
 シオンは苦渋の選択だというように頭を下げた。

「どうしても、でしょうか?」
「これだけは譲れません・・・私はオーブ代表代理です。私の選択にオーブの未来がかかっている。迂闊にな行動に出るわけにはいきません。それと―――キラ君の件ですが・・・あなたは、いや、あなたたちはと言うべきかな・・・彼をどうするつもりなんでしょう?」
「どう≠ニいわれますと?」
「これから先も彼をMSに乗せるつもりなのかと聞いているんです」

 シオンの言いたいことを理解し、マリューは眉をしかめた。 
 これから先、何事もなく無事にMSを司令部に持ち帰れるという保障はない。ならば今は少しでも戦力が欲しい。だが、シオンと彼のMSは使えない。ならばストライクの戦力は欠かすことはできない。
 マリューがその考えを話そうと口を開く前にシオンが口を開いた。

「MSに乗れるということと、戦うことができるということは別物です。あなたは他国の民間人を戦闘に巻き込んだ挙句、なんの訓練も受けていない素人の彼に戦場に出ることを強要するつもりですか? もし、そうだというなら・・・我らの敵として即刻、この艦を沈めるのでそのおつもりで。――――さて、私の話は以上です。あなたに言うべきことがないのなら私は医務室に引き上げさせてもらいますがよろしいですか?」

 代表代理といえども、歳相応の青年なのだと、マリューが警戒心を解き始めた矢先、シオンを取り巻く空気がまた変化を見せる。
 そのシオンの氷のような視線を受け、言葉を失ったマリューが反論できないのを見て、シオンはそのまま艦長室の扉を開いて医務室へと戻って行った。
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