Northern lights

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「お帰り〜」
 ラスティが声を掛ける。いつもなら即座に返ってくるはずの返事がなかった。いぶかしげに視線を向けるミゲル。そこには表情を消したシオンと明らかに落ち込んでいるキラ。そして見覚えのあるピンクの髪の少女が立っていた。
「えっ、嘘!? ラクス嬢?! なんでここに??」
 椅子に座ってくつろいでいたミゲルとラスティは、ラクスの姿を認めると慌てて立ち上がり背筋を伸ばした。
「まぁ、マッケンジー様。お久しぶりですわ。そちらは?」
 ラクスの問いかけに、ミゲルは敬礼と共に答える。
「クルーゼ隊所属、ミゲル・アイマンです。失礼ですが、ラクス嬢がどうしてこの艦に?」
「はい、ユニウスセブンの追悼慰霊のために事前調査にきていたのですけれど、地球軍の艦と出会ってしまいまして。あちらの方々にはわたくしたちの目的がお気に触ったようで・・・些細な言いがかりから酷い争いになってしまったんですの。それでわたくしだけが救命ボートに乗せられたのですわ。それをこちらの方が助けてくださったのです」
 そう言ってキラの方を見る。
「そうだったんですか・・・」
「サンキューな。キラ」
 徐々に声を沈ませるラクスにミゲルもまた沈痛な面持ちになり、かける言葉を失う。それを引き継ぐようにラスティはキラに礼を告げた。

 とりあえず、と、それぞれベッドと椅子に腰を落とす。
「お2人はどうしてこちらに?」
 ここは連合の艦だと聞いた。コーディネイターの、ザフトの敵艦。なのに、ザフトの軍人である二人がなぜここに居るのか。ラクスにとっては当然の疑問だった。
「ああっと・・・お恥ずかしながらヘリオポリスでの任務に失敗しまして。瀕死の重傷を負ったところをシオン・・・あぁ、そこの彼に助けてもらったんですよ」
「右に同じく」
 任務に失敗したと、話しにくそうに説明するミゲルとは対照的に、ラスティはなぜか嬉しそうに右手を上げる。
 その明るい声に、沈みかけた雰囲気がまた和んでいく。
「まぁ、そうでしたの。お2人を助けてくださってありがとうございます」
 真正面からラクスの笑顔を受けて、シオンはただ「いいえ」とだけ言うと持ってきたトレイを配り始めた。

 目の前で命が消えていくことに耐え切れず二人を助けた。けれど、彼らの身分を考えると、それが最良だったかどうか今でも疑問だった。
 命が助かったとはいえ、捕虜になってしまった現状。こんなふうに感謝されても良いんだろうか・・・。
 シオンの心情は複雑だった。

「これを食べたら、またあのお部屋に戻らなければなりませんの?」
 ラクスは寂しそうに肩を落として呟いた。
 その場に居た誰もが何も言えず、寂しそうなラクスの様子をただ見守るしか出来ないでいた。

「ここは連合の艦だから・・・コーディネイターのこと・・・その、快く思っていない人もいるし・・・今は敵同士だし、仕方ないと思います」
 現状を理解してもらい、ここでの待遇を納得してもらそうとキラは必死に言葉を選ぶ。けれど、“コーディネイター”“敵同士”という単語に心臓が抉られるような痛みを覚え、キラは歯切れ悪く視線を落とした。
 そんなキラの心遣いを労うように、シオンがその頭を優しく撫でた。その様子はまるで兄弟のようで、皆の目に微笑ましく映る。
「残念ですわね・・・でも、あなた方はお優しいのですね。ありがとう」
「いえ、僕は・・・僕とシオンさんはコーディネイターだから・・・」
 キラの言葉にラクスはきょとんとし、首をかしげた。
「あなた方が優しいのは、あなた方だからでしょう?」
 微笑みと共に告げられた言葉にシオンもキラも息を飲んだ。

 ――目の前のけが人を、戦争に巻き込まれた友達を・・・ただ、助けたかった。守りたかった。ただそれだけ――
 シオンとキラの胸中にラクスの言葉が染み渡る。

「お名前を教えていただけますか?」

「キラです。キラ・ヤマト」
「シオン・フィーリアです」
「キラ様とシオン様ですね? あらためて・・・わたくしはラクス・クラインですわ」
 ラクスがふわりと笑う。それでもその笑みの中に寂しさがあるのをシオンは見逃さなかった。
「・・・本当は士官室に戻らなければならないんだろうが、ここならラミアス艦長も大目にみてくれるだろう。君も一人で士官室にいるよりも彼らと居るほうが寂しくないだろうし、ラミアス艦長には私から掛け合ってみよう」
 だから君もここに居ればいいと、フッと表情を緩めてシオンが言う。
「はい!嬉しいですわ。なにからなにまでお気遣いありがとうございます、シオン様」

 満面の笑みを浮かべるラクスにつられるように、シオンはようやく微笑んだ。
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