Northern lights
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「嫌ったら、嫌!」
食堂から聞こえてきた甲高い声にシオンとキラは脚を止めて目を合わせた。
「もう、フレイってば、なんでよ?」
中を覗くとフレイとミリアリアが言い争いをしていた。
またか、シオンは内心げんなりとした。アークエンジェル内で厄介ごとが起こると9割方の原因はフレイ・アルスターだ。
父親が大西洋連邦の事務次官であるため甘やかされて育ったのだろう。我侭放題なのだ。しかも自分のすることはすべて正しいと思っているから余計に性質が悪い。彼女の言動が、過去にどれだけキラを傷つけたかも本人は理解していない。
シオンが小さくため息をついているその間も少女たちの言い争いは続く。
「嫌よ! コーティネイターの子のところに行くなんて」
「でも、あの子はいきなり飛び掛ってきたりはしないと思うんだけど」
キラが申し訳なさそうに口を挟むと背後から「まぁ、誰が飛び掛るんですの?」と声が掛かった。
シオンとキラが驚いて振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
「・・・・・・」
まるで時間が止まってしまったかのように、シオンは動けないでいた。思考が止まるとはこういうことを言うのかと漠然と思った。
人工的な淡いピンクの髪、大きな銀色の瞳、細く雪のように白い肌――。
外見に目を奪われたというのではない。彼女を包む雰囲気すべてに、なぜか心が揺れた。
「あら、驚かせてしまったのならすみません。じつはわたくし喉が渇いてしまって・・・それにはしたないことを言うようですけれど、ずいぶんお腹も空いてしまいましたの。あの、こちらは食堂ですか? なにかいただけると嬉しいのですけれど・・・・」
我に返ったシオンが口を開く前にフレイが拒絶の言葉を投げつける。
「―――ちょっと、やだ・・・やめてよ! コーティネイターのくせになれなれしくしないで!!」
フレイのその言葉はラクスだけでなく、キラの胸にも深く突き刺さる。
コーディネイターいうだけで、敵意などない少女に対してさえも言葉の刃を投げつけるフレイに、シオンが嫌悪感にも似た無力感を募らせたと同時だった。
パシン!!
室内に頬を叩く音が響いた。一瞬何が起こったのか解らず、室内の空気が水を打ったようにシン、となる。
それまでラクスの傍を飛び跳ねていたピンク色の球体がフレイの顔面に飛びついたのだ。否、飛びついたというよりも、体当たりしたという表現が正しいような気もするが・・・。
不思議と庇ってやる気も、掛けてやる言葉さえ浮かんでこなかった。ただ無性にこの場から立ち去りたかった。
キラだけでなく、無垢な少女にまで刃を向けるこのフレイという少女から離れたかった。
一方、顔面を赤くしたフレイは何が起こったのか理解できていないようだった。ただ、口をパクパクさせるばかりだ。
シオンは手早く5人分のトレイを取るとキラと少女を連れて医務室へと戻っていった。