Northern lights
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クルーゼ隊の追撃をなんとか凌いだアークエンジェルはやっとの思いでアルテミスへ入港した。
軍の認識コードを持たないだけに許可が下りないのではないかという懸念を他所に、あっけなくアルテミスから入港許可が下りたものの、その事に不信感を覚えたシオンは、キラにストライクの起動プログラムをロックしておくように言った。
素直に頷きはしたものの、キラにはシオンの言葉の真意が理解できていないようだった。それでもキラは兄のように慕うシオンの言葉ならばとロックを掛けた。
入港するやいなや、アークエンジェルは武装したMAに囲まれた。エアーロックを破り、武装した兵士たちが一斉になだれ込んでくる。
医務室にいたシオンの元にも兵士たちがやってきた。入ってくるなり、銃を突きつけられ、食堂へと連行された。
怪我人だという理由でなんとかミゲルとラスティだけはと抵抗したが、問答無用で連行され、マリュー以下、すべてのクルーが集められていた。
『これはいったいどういうことですか』と抗議するマリューに対し、指揮官らしき男がニタリと笑い『一応の措置として艦のコントロールと火器管制を封鎖させてもらうだけですよ』言い放った。
2人のやり取りを聞いていたシオンは周囲に聞こえないような小さな声で呟く。
「――そういうことか・・・」
「シオンさん?」
小さな呟きだったが、すぐ傍にいたキラ、そしてラスティとミゲルには聞こえていたようだ。どういう意味だ、と3人が同時に視線をシオンに向けた。
それらの視線と自分の視線を交わらせることないまま、シオンは独り言のように小さな声で語り始める。
「簡単なことさ。地球連合軍なんて旗を振り回していても一枚岩じゃないってことだ。元々連合は対プラント≠ニいう共通目的を持った国家の集まり。それくらいなら君たちでも知っているだろう?」
そう言ってミゲルとラスティをチラリと見る。
「それくらいなら。確か北米から中南米までが大西洋連邦だろ?」
「ユーラシア連邦はユーラシア大陸と北欧を除く、ヨーロッパ諸国を母体にした集まりだったはず・・・」
ラスティが言えば、後をミゲルが続ける。
「そういうこと。利権や大国の思惑、互いへの牽制―――足並みが揃ってるなんてお世辞にも言えない。しかも、アークエンジェルとストライクは北大西洋連邦が総力をつぎ込んで他の共同体にも極秘裏に開発依頼した新兵器だ。しかも最悪なことに大西洋連邦とユーラシア連邦は仲が悪い、とくれば―――そんな状況下でライバル視している共同体の最新兵器が自分たちのもとに保護を求めて飛び込んできたらどうなる? 結果は目に見えてるさ」
シオンは嫌悪感を吐き出すように言った。さすがのキラも事態が飲み込めてきたのか、言葉が出ない。ミゲルとラスティも渋い顔をしている。
そこにユーラシアの士官たちが入ってきた。
「私は当衛星基地指令官のジェラード・ガルシアだ。この艦に積んである2機のMSのパイロットと技術者は誰かね?」
「私です」
ガルシアの言葉に正直に返事をしようとするキラの口をすばやく塞ぎ、シオンは名乗り出た。隣に立つキラが目を見開いて自分を見るが、あえて無視する。
今になって、ようやくキラはシオンが言ったことの意味を理解した。
「ほう、君があのMSのパイロットか。だが、MSはもう一機ある。もう一人はどこかね」
「そんな者はいません。2機とも私が操縦しています。元々私のMSはストライクではないもう1機のほうなのですが、ヘリオポリス脱出の際、仕方なく協力しただけです」
「ほう・・・では、少し前の戦闘に出ていたのも君だというのかね?」
「ええ、私も死にたくはありませんので。――― ああ、それと・・・ストライクはいざ知らず、私のMSには指一本触れないでください。もし、無断でデーターを吸い出そうというなら、事は国際問題に発展します。その事をお忘れなきよう」
「・・・きさま・・・何者だ?」
暗にお前の首一つでは済まないぞ≠ニ無言の圧力を掛けられたガルシアはそれでも威厳を崩さぬように精一杯の虚勢を張るが、返ってきた答えに顔色を失った。
「申し遅れました。私はオーブ連合首長国代表代理、シオン・フィーリア。オーブの獅子の異名を取る我が国の代表、ウズミ・ナラ・アスハより全権を委任されてこの場に居ます。そしてあれはオーブのMS。連合の―――しかもあたな達ごとき階級の人間が軽々しく触れていいものではない。もし、あれに触れようものなら、私が全力を持ってあなた達を排除させていただく」
真正面からシオンの怒気を受けて言葉を失ったガルシアだが、なんとか威厳を正そうとしようとしたとき、緊張に耐えかねたカズイがテーブルのグラスを床に落とした。
行き場を失った怒りを向ける格好の獲物を見つけたガルシアはカズイに殴りかかった。それを庇ったサイが壁に吹き飛ぶ。それを見たフレイが悲鳴を上げて、覆いかぶさった。
そして次の瞬間、決して言ってはならない一言をフレイは口にした。
「やめて! その子がパイロットよ! だって、その子、コーディネイターだもの!!」
キラを指差すフレイを見て、シオンの顔色が一瞬で変わった。傍にいたマードックたちも一斉に顔色を変えた。それを見てユーラシアの兵士たちが唖然とする。
観念したキラが「僕がストライクのパイロットです」と名乗りを上げた。