兄さん誕生日その2
□逃げ回る
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「…ん…っ…」
重い頭、料理人はうっすらと瞳をあけた。木に縛り付けられ、吊された身体。蔓が彼を縛るように巻き付いている。身体は痺れ、頭はまともに働かない。だが、ここに居ては危ないことだけはわかったし、今はあの忌ま忌ましい花粉や青い花も散っていないことは身体で感じとった。隣には、気絶した巨大蛇やら巨大ハエやらがぶら下がっている。
(…どう…するか…)
気配を冷静に辿れば、近くに危険は感じなかった。となるとこの蔦の主はどこかへ狩りに行っているのだろうか。なおさら好都合だ。
「…悪魔風……脚…!」
足に火をつけて蔦を燃やし、どさりと地に跳ねて倒れ込んだ。痛め付けられ、伏せたがる身体。息が荒く重い。そう遠くには逃げられそうにないし、逃げる方法すら思い浮かばない。でも、どこかへ、逃げなければ――
よろよろと立ち上がって、痺れる身体に鞭うちながら、歩きだす。植物の気配のみを精一杯察知しながら、一方で、必死に苦しそうに進みながら、前へ前へ。
――あいつ……連絡してたような…。
働かない頭でも、つい浮かんでしまった、彼等のこと。必死に叫ぶ声が、ぼやけた意識にも染み付いていた気がした。
――都合…のいい…幻聴かも…しれねぇけどな…?
適当に動かした手の平で感じとった、木の肌。加工された木。ぼやけた視界を擦れば、どうやら、家のようだ。なにか燃やすような煙の匂いもする。もしかしたら、誰かいるのかもしれない――
――……!
表情がさっと青ざめた。何か這って来る音がするし、背から危険な気配がする。とっさに燃えた足で気配を追い払った。はぁはぁ、と無駄に酸素を使って息苦しい。それでも、ようやく見つけた扉をまさぐり、無理に引いて。
「……だれ……か…」
声を精一杯出した途端、
「どうしたんだい!?」
帰ってきたまともな反応。しかも女性のようだ。触れられた温かい手に思わず安心し、料理人は意識を手放して、身体を倒した。
―――
逃げ回る。よがっだね、兄さん←
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